■ビジネス文の観点 1/2:入試問題の設問をめぐって
1 入試問題設問の文章:ダメな例と修正例
黒木登志夫の『知的文章とプレゼンテーション』という本を読み出したら、おもしろい例文がありました。木下是雄(『理科系の作文技術』)がおかしいと指摘した例文を、他の学者が書き直した例が示されています。以下は、共通一次試験の設問です。
次の金属のうち、その4.0gを希塩酸の中に入れたとき、金属が反応して完全に溶け、その際発生する気体の体積が、0℃、1atmで1600cm3になるものを選べ。
これを地球物理学者の坪井忠二が書き直しています。
ある金属の4.0gを希塩酸の中に入れたら、反応して完全に溶けた。そしてその際発生した気体の体積は、0℃、1atmで1.6Lであった。この金属は何か。次に与えてある7つのうちから1つ選べ。
この文章をビジネス文書の観点から、どう書くべきか考えてみましょう。
2 ビジネス文ならどう記述すべきか…?
ビジネス文書は、簡潔・的確であることが必要です。的確というのは、必要な情報が入っていて、その情報が正確に伝わるということです。簡潔というのは、必要な情報を、なるべく短く、シンプルに書くということです。
元の設問の文はそれなりに簡潔です。坪井教授の修正したものは冗長です。「ある金属の4.0g」「そして」「次に与えてある7つのうちから」…などは、見直すべきでしょう。元の設問で問題となるのは、一文に情報を入れすぎてわかりにくいという点です。
こういう場合、文を分ければ事足ります。反応して溶けた…というところで区切ります。あとは、条件提示の部分がどこであるのかを明確にすれば、十分でしょう。ビジネス文の価値が、簡潔・的確であるという観点からすると、参考例は以下のようになります。
ある金属4.0gを希塩酸の中に入れたところ、金属が反応して完全に溶けた。その際発生する気体の体積が、0℃、1atmの条件下で1.6Lになるものを、以下から選べ。
3 短くても間違われないように書く
文章が伝わるように…という目的で書き直しても、元の文よりも冗長になってしまったら、ビジネス文としては失格です。簡潔という価値を大切にすべきです。簡潔にすることで、理解しやすくなること、さらに実際の字数が少なめであることが必要です。
(1) 文章に記述すべき情報が、何と何であるのか、選択すること。
(2) 選択した情報を、どういう順番で記述するかを決めること。
(3) 一文に盛り込む情報量が、どの程度なら理解しやすいかを判断して書くこと。
こうした手順が取られるはずです。かつてテレックスを使っていた時代、通信が遅くて通信費が高かったため、いかに短くて間違われないように書くかが、重要な業務でした。こうした実際の必要から文を書いた人たちが、ビジネス文を作ったと言うべきでしょう。([ビジネス文の観点 2]に、つづく)