■「わかる」ということ:山鳥 重『「わかる」とはどういうことか』を参考に
1 時間と空間の見当がつくこと
私たちは、何かを理解しようとするとき、何らかの手がかりが必要です。多くの場合、時間と場所が、その中核になります。時間と空間とに関わることなく、何かを経験することはできない、というのがカントの洞察だったと思います。
時間と空間に関することは、数量化できます。そのことが、理解をさらに正確にします。客観化が可能ですので、時計や地図のように、人が共通の基準として使えるものが存在することになります。
山鳥重は、『「わかる」とはどういうことか』で、<時間の見当がつけられ場所の見当もつけられるから、われわれは安心して暮らせています>…と書いています。時計と地図があったら、初めての土地でも、ない場合にくらべて、ずいぶん安心だろうと思います。
2 全体像がわかることが大切
その一方で、<大きな広がりの中で、正しく見当をつけると言うことの大切さは、時間や空間に限りません>。例えば、資料をどのくらいのペースで読んでいったら、間に合うか、見当がつけられたら、計画が立てられます。以下のように書いています。
見当をつける、というのは扱っている問題を一度手元から話して、遠い距離から眺め、他の問題とのかかわりがどうなっているのかという大枠を知ることです。全体像をつかむことです。
「わかる」というときに、全体像がわかることが大切です。操作マニュアルについて、<これくらいわかりにくいものはありません>と山鳥が書くとき、操作マニュアルの不備がどこにあるのか、見えてきます。全体像を示せていないということになります。
3 操作マニュアルにも全体像が必要
操作マニュアルを<フォローしている間は、何がどうつながればどうなるのか、という全体の流れは全くわかりません>。次々、具体的な操作手順が示され、それに従うだけでは、全体のイメージがつかめないのです。
ではどうすれば、よいのでしょうか。<誰かにそのメカニズムを教えてもらい、その上でデモンストレーションでもやってもらうと、すぐ理解出来ます>…とのことです。一連の操作全体をやって見せてもらうと、何となく全体像がわかります。
全体を示した適切な図がついていると、テキストもわかりやすくなります。特に専門的でない人たちを対象とする場合、最初に、全体像を示すこと、あるいは、完成のイメージを示すことが、見当をつけることに役立ちます[操作マニュアルの役割]。
4 わかったかどうかの検証
ただ、操作に関して、全く見当がつかない人には、OJTが必要だろうと思います。初期の段階において、ある程度、全体を理解してもらってからでないと、操作マニュアルだけでは、解決しない場合がよくあります。デモンストレーションが必要なのです。
『「わかる」とはどういうことか』には、(1)「わかったこと」は行為に移せる、(2)「わかったこと」は応用出来る、との項目もあります。これらのチェックによって、わかっているのかどうか、検証することも可能でしょう。
この本には、全体像が「わかる」以外にも、整理すること・筋が通ること・空間関係・仕組み・規則が合うこと、などが「わかる」と感じさせてくれるものとして、あげられています。参考になる点がたくさんあります。