■知的な小説家の文章構成法:佐藤春夫の文章作法

1 まず書いてみること

佐藤春夫(1892-1964)は、『田園の憂鬱』を書いた小説家として、また「秋刀魚の歌」を歌った詩人として有名です。同時に、『退屈読本』という評論で名を残しました。知的な小説家といえます。1935年に書かれた文章作法はあまり知られていません。

佐藤春夫は、文章を書くには練習が必要であるという前提に立っています。練習とは、書くことそのものであるという立場です。どう書くかというよりも、まず、とにかく書かないことには、その先に行かないということです。

ではどうするか。モーパッサンの小説から、作文に自信のない男子が教えられた文章作法を紹介しています。女性が、男の思うところを語らせます。それを聞き取って筆記して、これが文章です、と示します。思うところを書けばよい…ということです。

 

2 文は人なり

書いてみたら、その次に、それが「簡にして要を得る」ものであるか、確認する必要があります。よく書けたものなら、明晰な内容になっているはずです。そのためには、「明晰な頭脳を必要とする」と言います。

佐藤春夫は「文は人なり」と書いています。ニーチェの言葉「文体の改善とは生活の改善にほかならない」というのは卓見だと記します。思うところを書いて、そこに内容が伴っていることが必要です。その人物以上の文は書けない…ということなのでしょう。

あえて書く以上、自分がよくわかっていることについて書かなくてはいけない…ということでもあります。知りもしないことを調べて、未消化で書いても、それではダメだということです。自分の得意なことを選んで書くべきだということでしょう。

 

3 書く項目を順番に並べる

自分の思うところを書くとき、その前提として明晰な思考が必要とされます。言いかえれば、思考が明晰になるように書く必要があるということです。文は人なりとは、書くことによって思考が明晰にならなくてはいけない、ということでもあります。

佐藤春夫がすすめる方法は2つあります。一つは、すぐれた文章から学ぶことです。学び方の方法は問わないと言います。書き写すのでも、同じ内容を書いて比較するのでも、愛読するのでもよいのです。自分のやり方で学ぶことが大切だ、ということになります。

もう一つ、アナトール・フランスの方法を示します。大綱を項目として並べておいて、そこに細部を書き足していく方法です。何を書こうかと考えたなら、あれを書こう、この順番で書こうと、一通り考えてから書くのが自然だ…と佐藤春夫は言います。

何を書くのか、どの順番で書くのか、先に紙の上に書いておくのが「聡明な用意周到で無理のない方法」だと記しています。漫然と書かないように…という注意は、思考の明晰さを求める作家としては、当たり前のことなのかもしれません。