■マニュアルにおける whyと how
1 標準化のための“how”
業務マニュアルには、図が少なくなりました。これは標準化できない領域が増えたことが大きな原因だろうと思います。図を使うためには、こうするという手順が決まっていることが条件になります。決まりがあるなら、図で説明しやすいでしょう。
業務マニュアルに、標準化された作業の手順を書く場合、どのように行うかの手順を記述します。一方、操作マニュアルの場合、標準化されていることが前提になっています。このように標準が決まっているときには、“how”が問題になります。
ある基準があって、それに合わせる場合、どのように事をなすのが正解なのか、が記述されます。逆に言うと、“how”(どのように)が問われるときには、基準となる正解が存在しているということになります。
正しい手順が、その作業内容と、決められた順序で記されていくことになります。ここには客観化への意識があります。作業ですので、客観化への意識は外形的な基準が適用になります。どう思って行うべきか…ということは、まず問われることはありません。
こういう決まった作業が多くなりすぎると、違和感を持たせることになります。そのためバランスが問題となります。標準化された業務が多すぎると、それに従事している人は、人間的に扱われていないという感覚を味わうことになります。
2 ベクトルあわせが必要
かつてのマニュアルには、基準が必須のものでした。しかし、これらを聞き取って手順を書いていくことは、実際におやりになれば分かる通り、簡単にはいきません。そうとう苦労する作業だろうと思います。
聞き取りをする人だけでなく、聞き取られる人も、ある種の訓練が必要になります。その意味で、業務を標準化すること自体、そうとうストレスのかかる作業だといえます。しかし、これなしに自分ルールが全ての業務に適用されたら、業務はバラバラになります。
このあたりが悩みどころになっています。日本の代表的な組織でも、多くの場合、業務マニュアルが整備されていません。信じられないようにも思いますが、現実です。それでも、業務が回っています。ただし、もっと効率化できると感じているはずです。
業務を標準化するには、どうしたらよいか…という質問をいただくことがあります。この質問は、業務を決まりきった手順で行いたいという意味ではありません。各人のやり方はあってもよいが、バラバラすぎるので、何とかしたいという意味になっています。
つまり、業務をどういうルールのもとで回していったら、ベクトルが定まって、効率的に行えるのか、という意味になっています。業務効率を上げるために、かつての標準化のようにすべてを決めるのではなく、ベクトルが定まる程度の方向づけを行いたいのです。
3 2つの“why”が問われる
ベクトルを定めるためには、業務を行う際、最低限守るべき規範の提示が必要になります。2つの「どうして」=“why”が問われます。なぜ、この業務が必要なのか、なぜ、こうした手順をとるのか、という点が問題になります。
「基準」から「規準」への変化ともいえます。大辞林の説明によると、<「基準」は物事を比較・判断するときのよりどころとなる標準のことであるが、それに対して「規準」は手本として守るべき規範・規則>…とのことです。
お手本がベクトルの方向を決めます。詳細な手順は記しません。しかし、なぜそれがお手本になるのか、その答えが求められます。「~するため、こうする」「~しないように、こうする」という“why”の答えが必要なのです。
これらは文字で記述されるのが原則です。しかし、文字だけでは、実際の作業を身につけるのが困難です。そこで、OJTをうまく活用することになります。すべての手順を記述する代わりに、OJTの利用が必須になっています。
その際、(1) ベクトルあわせの確認、(2) 業務の成果の確認、が必要になります。同時に、ここだけは、この手順で決まったとおりにやらないと問題が起こるというところもあります。慎重に、定型的に、確実に行うべき業務もあるということです。
こうした定型性が必要な業務は、きっちり聞き取って、標準化する必要があります。業務の中で、どのくらいの割合を占めるかは、業種や各組織のカルチャーにもよります。上手なバランスが必要です。そのバランスを決める基準は、業務の成果になります。