■「焦点」をめぐって:日本語のバイエルの道具

▼日本語の構造を知るのに「目的語」は不適

「日本語のバイエル」では、日本語を4つの要素に分けて見ていきます。その4つがわかれば、文の骨格が見えると考えています。骨格を見分けるのは、2つのアプローチからになります。一つは、その実質的な働きから、もう一つは、助詞の接続による形式からです。

4つの要素とは、主述関係を形成する主体と述部(述語)、焦点、前提(TPO)です。英語の五文型で使われる目的語・補語という概念は使いません。日本語にぴたっと当てはまらないためです。

He married her. という英文の「her」は目的語になります。日本語ではおそらく、「彼は彼女と結婚した」になります。「彼女」が目的語に該当するはずです。しかし、目的語という感じがしません。

主体のあとに「名詞+と」がくる場合、主体の付随情報になります。「彼」が主役になり、主体に付随する情報が示される形式です。このとき、「名詞+と」を目的語とみなすのは違和感があります。

「彼女」が目的語らしく感じるのは、「彼は彼女を伴侶とした」という文のときだろうと思います。この言い方は、日本語としてこなれていません。がさがさした感じを効果として利用するなら別ですが、標準的な言い方ではありません。

目的語という概念を日本語の文法に取り入れても、あまり大きな役割を果たすとは思えません。それよりも、接続する助詞の形態から、日本語の構造を把握するほうが有意義だろうと思います。

 

▼日本語の主要な助詞

主述の関係以外に、焦点という概念を日本語の文法に取り入れた場合、どういう効果があるのでしょうか。まず焦点という概念は、明確な定義ができる点で有利です。明確な概念ですから、実質的な働きと助詞の接続形式から、文の要素として確定できるのです。

焦点に接続する助詞は、「が・を・に」が中心です。日本語の助詞の主要なものは、「は・が・を・に・で」です。これらが、日本語の骨格を形成します。主体に接続する助詞は「は・が」です。前提に接続する助詞は「に・で」です。

ご覧の通り、「が」は主体と焦点に接続します。「に」は焦点と前提に接続します。たとえば、場所に「に」が接続したら、それは焦点になります。時間に「に」が接続したら、それは前提(TPO)になります。例文で見て見るとわかりやすいと思います。

≪私たちは、公園に行った≫…という文の「公園に」は焦点です。焦点というのは、文の必須要素のうち、主述でないものです。「私たちは行った」だけでは、文が完成した感じがしません。「公園に」が必須の要素となっているのです。

一方、≪私たちは、8時に集合した≫…という文なら、「私たちは、集合した」で完結した文になります。「8時に」は前提(TPO)になります。主述関係が文の骨格ですから、「に」という助詞は、「は・が・を」よりも、強調の程度が落ちる助詞になります。

 

▼助詞「へ」と「に」

ここで「に」と類似の働きをする助詞「へ」を見ておきましょう。≪彼は仙台に行った≫でも、≪彼は仙台へ行った≫でも、正しい文です。この違いを説明するとき、仙台という地点を示すとき「に」、方向を示すとき「へ」がつくと説明されます。

その通りです。ただし、機能から見ると、もうすこし説明を追加したくなります。たとえば、相手方から自分たちのオフィスに荷物が届いた場合、≪荷物がオフィスに届いた≫なら正しい文です。しかし、「へ」はおかしいでしょう。

「へ」というのは、自分のところに始点を置くベクトルです。したがって、ある地点から、方向を示す場合には使えますが、自分のところが終点になる場合に、「へ」はつきません。≪荷物がオフィスへ届いた≫は、誤用です。

さらに、「へ」に接続されるのは、原則として場所・方向であって、時は接続されません。こうした点から、助詞「へ」は、助詞「に」より使える範囲が狭い助詞だということが言えそうです。主要な助詞に「へ」を入れずに、「に」を入れているのも、そうした理由からです。