■「日本語のバイエル」は規範文法です

▼役に立った規範文法

19世紀のイギリスは、かなりの階級社会だったようですね。同時にこの時期、新しい世代が台頭してきて、社会に大きな変化が起きていたようです。経済の発展に伴って、ビジネスが拡大して、実力のある人が必要となりました。

ビジネスに手紙のやり取りはつきものです。きちんとした文章を書くことが求められます。そのとき強力な武器になったのが、英文法だったのです。英文法を学ぶことによって、きちんとした英語が書けるようになります。高い地位の仕事が与えられました。

興味深い事実があります。文章を読んだり書いたりするときに使われて、役に立った英文法は、規範文法だったということです。渡部昇一が『英文法を知ってますか』をはじめとした本で、繰り返し規範文法の有用性を語っています。

しかし英文法は、20世紀後半から記述文法が主流となっています。かつて役に立った規範文法が廃れています。日本語の場合、現在、文法といえば、記述文法だけといってよいと思います。

▼記述文法の説明

記述文法と規範文法の違いを見てみましょう。記述文法というのは、大雑把な言い方をすると、現在使われている言葉のルールを見出して体系化する文法です。ひとまず「コンニャクは太らない」という例文で考えてみることにしましょう。

記述文法の考えからすれば、「コンニャクは太らない」という文は、別におかしくないということになります。実際、多くの方も、これがまちがった文章だとおっしゃらないでしょう。こうした言い方がなされても、この文のままで意味は伝わります。

しかし、文の構造を考えるときに戸惑うはずです。主語は「コンニャク」で、述語は「太らない」だという説明があったら、妙な感じをもつはずです。コンニャクは物体です。太ったり太らなかったりしません。太るとするなら人間でしょう。

しかし、記述文法は、こういう発想をしません。

記述文法に従えば、例文は、簡単に説明がつきます。「コンニャク」は主題であるということになります。主題に対して、その説明・解説がつながると考えます。「コンニャク」というテーマに関連することなら接続しうるということです。

「コンニャク」というテーマに「太らない」は関係するから、「コンニャクは太らない」という例文は問題ないと考えるのです。しかし、記述文法の説明に従うと、日本語の論理関係は成り立たないことになりそうです。

▼規範文法:日本語のバイエルの説明

こうした論理関係を否定する説明に違和感を持つことが、規範文法の基本になります。日本語のバイエルは、規範文法に当たります。「コンニャクは太らない」という文を好ましくないと考えます。本来は、「コンニャクは太らない食品です」であると考えるのです。

日本語のバイエルでは、日本語の基本構文を大きく3つに分けます。その第1構文は、「誰は誰です」「何は何です」という説明や定義を示すときの構文です。「コンニャク」を説明するときには、「何は」「何です」という形式がわかりやすいという考えです。

<コンニャクは…食品です>が基本です。この基本が口語化に伴って、「食品です」が欠落したものと考えます。

どちらが簡潔で的確に伝わる文章になるのか、そのルールを考えることが日本語のバイエルの目的です。簡潔・的確という価値基準が基本です。いうまでもなく、このルールに反するからまちがいである、という考えをとりません。文章は多様性を必要としています。