■業務マニュアルとOJTプログラム

1. OJTの重要性

業務マニュアルに、OJTの方法やプログラムを載せる企業はまだ少ないと思います。しかし、今後載せる必要を感じる業務がどんどん増えてくるはずです。

すでにOJTの方法を業務マニュアルに載せている企業は、たくさんあります。たとえばファストフードのお店の業務に関して、かなりの部分がOJTの方法という形式で、マニュアル化されています。

すべてを文字で記述したマニュアルだけでは、サービスの質が落ちるリスクがあります。言葉ですべてを伝えようとしても限界があります。

多くの場合、リーダーが、きちんとした研修を受けて、その成果を元にOJTを行います。こうした合理的なOJTによって、質の高いサービスが提供できるようになります。OJTの手法が確立しているならば、合理的な業務の継承が可能なはずです。

十分考えられたOJTが行われている場合、教わった方も教える側にまわったとき、同じような方法で、業務の仕組みを伝えることが容易になります。

 

2. 暗黙知は形式知にならない

OJTの手法を記述しておくと、その手法を改善していくことが容易になります。改善の成果を、OJTの方法としてマニュアルに組み込んでいけます。新たな業務を構築していく場合にも、業務マニュアルという見える足場がありますから、次の展開を考えやすくなります。

暗黙知という言い方があります。それを形式知に換えるというお話も聞きます。しかし、それはなかなか大変そうです。

自転車に乗れるようになったら、その後10年間、自転車に乗ってなかったとしても、すぐに乗れるようになれるはずです。これが暗黙知ですから、形式知に換えるのは簡単ではありません。

こういう場合、伝達すべきことの中心は、コツを教えることになります。上手にコツを伝えたうえで、実践を何度かする必要があります。こういう取得の方法を経た知は、形式知ではありません。すくなくとも暗黙知を多く含んでいます。

私たちは、暗黙知を含む業務を継承しています。そのときに大きな役割を果たすのが、OJTです。

 

3. OJTを高度化させる方法

業務マニュアルに、OJTの方法を載せるというのは、マニュアルの性質から言っても、必要なことです。

もし業務がすべて標準化されて決まりきったものであるならば、チェックができます。文字で記述しておいて、業務遂行者を管理することで、最低限の確認ができるようになります。

しかし業務に熟練した人たちは、つぎつぎと業務をレベルアップさせていき、独自の手法を形成していくはずです。そうした手法を、すべて文字で表現して伝えるのは無理だろうと思います。

大前研一さんが、マッキンゼーで仕事を始めたときに、先輩からOJTを受けたというお話を聞いたことがあります。レベルの高い仕事は、OJTとなじむところがあります。

単なる標準化された業務ばかりならば、記述された業務マニュアルで足ります。しかし、実際の業務は、それでは困るはずです。

こうしたギャップがあるために、業務マニュアルが、あまり使われていません。代わりにOJTで業務を継承、発展させていることが多いことと思います。

そのとき、OJTが考え抜かれたものであるならばよいのですが、実際は特別な準備もなく、先輩から後輩に個人的に継承されていくことが多いようです。OJTのプログラムなど、ありませんよ…というお話はよく聞きます。

OJTの手法を、こと細かにすべて記述しておく必要などありません。しかし、どう伝えていくのが合理的であるのか、各人の工夫を継承していかないのは、もったいないことです。

いわゆる知識労働といわれるものは、標準化できないことが多々あります。そのため、OJTの質が、業務に与える影響が非常に大きくなります。今後、業務マニュアルに、OJTの手法が載せられていく傾向が強まるとみられるのも、そのためです。

OJTを高度化させる一番の方法は、業務マニュアルにその手法を記述しておくということです。