■「水平展開」とパワーポイント

1. 「水平展開」の質

「水平展開」という言葉をご存知でしょうか。製造業に関係ある方なら、ご存知の方が多いことと思います。各業務を担当する人が、問題を持ちよって、業務を通じて経験し学んだことを発表する制度です。

発表はスライドを使って、管理職を含む人たちの前でなされます。日本企業の強さの根源となる制度であるとの評価があります。製造業の中でも強い企業は、こうした学習戦略をとっています。

ところが少し前に、心配なお話が持ち込まれました。管理職の方からのご相談でした。最近の若い人たちの発表の質が下がっているというのです。最初は、様子を見ていたようです。若い人の感性がわからないのかもしれないとか、いろいろ反省しながらガマンしていたようです。

しかし、あるとき、これは絶対的な水準が下がったのだと確信したようです。これはただならぬことが起きていると、だんだん心配になってきたということでした。

パワーポイントをお使いですか、とお聞きしました。そうです、とのこと。若い方々は、手書きで資料を作らずに、入社したときから、いきなりパワーポイントですよね、と確認しました。

ああ、それですね。私が入社したときには、パワーポイントはまだ使っていませんでした、とおっしゃって半ば納得なさっていました。

2. パワーポイントの問題点

なぜ、これだけで話が伝わったのか、ちょっと説明しておきましょう。

パワーポイントは、とても便利なツールです。あまり考えなくても、何となく資料を貼りつけていけますし、たくさん並べると、何となく格好がつきます。逆に言うと、全体のシナリオをきちんと考えなくても、何だかできちゃったということになります。

本来、発表するときには、学んだことを徹底的に詰める必要があります。しかし、経緯を写真や図つきで説明して、ちょっとした教訓的なことを語ったら、発表らしくなります。先の管理職の方に、そんな感じになっていませんか…と申し上げました。まさしく、それでした。

発表の前には、手書きで、シナリオ作りをする訓練が必要です。慣れてくれば、いきなり資料作りをしても問題ありません。しかし、こうした手書きで、何をポイントにおいて、どう話を進めるかを考える過程がないと危険です。

じつはこうしたシナリオを作る過程で、自分の発表内容の貧弱さ、不十分さを感じて、もう一度自分が学んだと思ったものを、再確認せざるを得ないはめに陥るのです。それが訓練になります。

苦労もせずに、次々貼りつけていくと、資料も増えていきます。大切なポイントが希薄化します。焦点が絞れていないと、具体的な対策としての有用性も落ちます。

便利なツールの副作用です。

3. 手書きの工程を入れる

だからといって、パワーポイントを廃止すべきではないでしょう。便利なツールですから、味方につける必要があるということです。

では、どうしたらよいのでしょうか。簡単な話です。発表に際して、手で紙に書く工程を入れてくださいということです。

もうひとつ大切なことがあります。パワーポイント作成の前に、「誰に見せるのか」「何のために使うのか」という点を明確にしてくださいということです。

別の言い方をするならば、イメージを重視するのか、実質を重視するのかをはっきりさせましょうということですね。訴え方が変わると、作り方がずいぶん変わります。

水平展開の場合、実質重視でしょう。そうなると、いっそう内容の詰めが問題になります。

手で書くことの優位性を認識しておく必要があります。手書きですと、入力と印刷が同時にできます。これが有利に働きます。その場でそのときに書いたものが確認できますから、その都度その都度のフィードバックがしやすいということです。

また、シナリオを作る際には、論述の順序を再検討することが必要です。プリントアウトしたものを、手で修正していく工程があったほうが、出来がよいはずです。