■すぐれた日本の箴言集:岡本太郎『壁を破る言葉』から

     

1 岡本太郎の箴言集

箴言集とか、アフォリズムと呼ばれる短い言葉を集めた本がいくつかあります。『ラ・ロシュフコー箴言集』が代表的なものかもしれません。間違いなく読む価値はありますが、17世紀のフランスの人の言葉ですから、どこかピタッといかないところがあります。

日本人の箴言集では、芥川龍之介の『侏儒の言葉』が有名です。もはや読む人はいないかもしれません。私が取り出すのは、岡本太郎の『壁を破る言葉』です。この本に先立って『強く生きる言葉』が出されていますが、『壁を破る言葉』が圧倒的でした。

例えば、22頁<きみはあなた自身を創造していると思いなさい>、29頁<自分の姿をありのまま直視する、それは強さだ>、32頁<「こういうもの」を表現したい、という最初の衝動がある。描きたいという衝動じゃない。「こういうもの」を、なんだ>。

     

2 すぐれた芸術とは

岡本太郎は1911年生まれ。芸大に入学してすぐに中退して、パリにわたり、パリ大学で哲学などを学んでいます。大阪万博で製作された「太陽の塔」が代表作かもしれません。画家としての評価は、どうなのかわかりませんが、文章は、間違いなく上手です。

127頁<すぐれた芸術には、飛躍がある。創造だから。必ず見る人に一種の緊張感を要求する>と言い、35頁<苦労した作品より、ひとりでにどんどん進んでしまったもののほうが、いつでもいい>と言います。そしてまた、74頁<壁は自分自身だ>と言うのです。

77頁<芸術の技法というものはない。芸術はメッセージだ。伝えたいものがあるならば、言うことはおのずから決まっている。一番的確に、言いたいことを表す形は何か。それは自分にしかわからない>。言葉は激しくとも、言うところは正統派です。

    

3 一番大切にしている箴言集

岡本太郎の姿勢は、どんなものでしょうか。162頁<若さということは、無条件にいいことだと考えてよい>という考えです。そのためには、148頁<いつも自分自身を脱皮し固定しない。そういうひとは、つねに青春をたもっている>ことになります。

たぶん、47頁<いつも危険だと思うほうに自分を賭ける。それが生き甲斐だ>という姿勢が、岡本太郎の指針になっているのでしょう。やりたいと思っても、理解されたり歓迎されたりしないのが普通です。リスクがあります。でも危険なほうに「賭ける」のです。

61頁<理論で作品は創れない>のですから、146頁<自分の信じること、こうだと思うことに、わき目もふらず突き進むだけだ>、15頁<なんでもいいから、まずやってみる。それだけなんだよ>ということになります。10頁<自由の実験室>ということです。

当然、こういう姿勢で行けば、必ず孤独を感じることになります。145頁<孤独であって、充実している、そういうのが人間だ>ということです。人それぞれ相性があるでしょう。『壁を破る言葉』は、私が一番大切にしている箴言集と言ってよいものです。