■期待との一致が重要であるという認知心理学の常識:OJTマニュアル講座に関連して

      

1 教え方の標準を記述するOJTマニュアル

来月、OJTマニュアルの作成講座があります。どうやって教えたら効果的なのか、教え方を標準化して、改善していくアプローチのマニュアルの話です。指導する側が使うものですから、ユーザーが使う業務マニュアルや操作マニュアルとは、ずいぶん違います。

教える内容については、十分わかっている人が使うマニュアルですから、教え方の方法、プロセスを記述する簡潔な文書です。たいていの場合、A4に一枚ですむのではないでしょうか。問題は、教え方とそのプロセスをどうするかにあります。

最初から、こうすれば良いという決定打が示せるのは、例外的なことです。教えてみて、初めてこれはいいぞとか、これはズレているぞと、わかります。OJT用のマニュアルを作って、それを改定していけば、だんだん効果的な教え方がわかってくることでしょう。

     

2 わかりやすく教えても定着しない

OJTマニュアルは、いままでほとんど注目されてきませんでした。しかし、思いのほか大きな成果を上げる組織の例が出てきていますから、一部の方々から興味を持たれるようになっています。何となく先輩が後輩に教えていたのと、同じであるはずはありません。

しかし、教える側は、ある種の幻想を持ちがちです。自分はきちんと教えた、こんなにわかりやすく教えた、だから効果があるはずだという思いを持ちます。今井むつみは『英語独習法』で、こうした思い込みが間違いであると記していました。

▼「わかりやすく教えれば、教えた内容が学び手の脳に移植されて定着する」という考えは幻想であることは認知心理学の常識なのである。 p.3

    

3 期待との一致が重要

今井は、バスケットボールの試合のビデオを見て、一方のチームが何回パスを回したか数えるように言われた場合の事例を示します。このときビデオの中で突然、着ぐるみのゴリラが画面中央に現れても、なぜか、3分の2くらいの人はゴリラに気がつきません。

[当り前のことが起こると、その情報は受け流してしまい][予期しないものは気づかずに見逃してしまうことも多い](p.7)という傾向があります。何に焦点を当て、何に期待するかが問題なのです。一生懸命やっても、ここがズレていたら成果が上がりません。

▼教える側がどんなにわかりやすく教える内容を提示しても、それが学習者の期待と一致しないもので、学習者が別の情報を期待していれば、教えられた情報に気づかずに受け流してしまう可能性が高いのである。学習者がどんなに一生懸命集中して聴いたり読んだりしていても、である。 p.8

感動した話でも、ひと月すれば、感動したという記憶しか残らないものです。受講する側に、何を目指すものであるのかを示さなくてはなりません。その習得を期待するようにすることが大切になります。目標が必要です。一番の基礎から講義したいと思っています。