■パース「アブダクション」の簡潔な説明:魚津郁夫『プラグマティズムの思想』から

     

1 アメリカ思想全体の特徴

魚津郁夫『プラグマティズムの思想』は、もと放送大学用のテキストでした。簡潔でわかりやすい説明の本です。「まえがき」に、トクヴィル『アメリカの民主政治』におけるアメリカの「哲学的方法」の特徴を指摘して、アメリカ思想全体の特徴を示します。

▼その哲学的方法の特徴は、(1)体系を排すること、(2)眼前の事実を重視すること、(3)物事の理由を権威にたよらずに独力で探求し、結果をめざして前進すること、(4)定式をとおして物事の本質を見ぬくことである p.11-12

このトクヴィルの指摘は19世紀後半のものであり、プラグマティズムの誕生よりも早いものです。[しかしそれは、現代も含めてアメリカ思想全体の特徴をいいあてている](p.12)のでした。これによって、プラグマティズムの基本的特徴がつかめます。

    

2 パースの「アブダクション」

プラグマティズムの基本には、[パース以来の「可謬主義」が現在にいたるまで伝統としてうけつがれている。それは認識能力に限りのある私たち人間は誤謬をおかす可能性をつねにもっているという主張である](p.13)。ここから様々な考えが展開します。

『プラグマティズムの思想』は、こうした展開を15章に分けて論じました。ずいぶん極端な言い方に聞こえるかもしれませんが、この中で一番大切なのは、第5章[パースの「アブダクション」と可謬主義]です。エッセンスがわかりやすく、約20頁で語られます。

パースは推論の形式を、ディダクション・インダクション・アブダクションの3つであると主張しました。[現象を理解するために][アブダクションによってそれを説明する仮説をつくり]、ディダクションとインダクションで仮説の推定をします(p.119-120)。

    

3 あたらしい観念を導入する唯一の論理的な操作

「これらは全て白い豆だ」、そして「この袋の豆は全て白い」ので、「全てがこの袋の豆だ」ろうと仮説を立てるのがアブダクションです。ディダクションでは、「この袋の豆は全て白い」、「全てがこの袋の豆だ」から、「これらは全て白い豆だ」となります。

さらにインダクションでは、「全てがこの袋の豆だ」、そして「これらは全て白い豆だ」、よって「この袋の豆は全て白い」だろうと推定するものです。これらは3つのフレーズを「A→B→C」「B→C→A」「C→A→B」という組み合わせにしたものでした。

これを変形すると、「白い豆がこぼれている」「あそこに白い豆の入っている袋がある」「あの袋からこぼれたのではないか」となります。これは推定にすぎません。大胆な仮説や洞察も推定ですから、つねに間違う可能性があります。繰り返しの検証が必要です。

新しいことを考えるとき、私たちは仮説に依存します。そして、しばしば間違うでしょう。しかし検証が可能なら、仮説がより正確なものになっていきます。パースは、アブダクションを[あたらしい観念を導入する唯一の論理的な操作](p.119)と語りました。