■ドラッカーの著作が教科書にならない理由
1 『経営者に贈る5つの質問』と『未来への決断』の「使命」
「使命・ミッション」についてのブログに関連して、興味深いやり取りができました。以下、それを少し発展させた話になります。使命・ミッションという用語が、ブレの大きな言葉である点から、マネジメントの用語として確立していないという話を書きました。
ドラッカーの最晩年に、非営利組織を念頭においた「5つの質問」が生み出され、現在では『経営者に贈る5つの質問』にまとめられています。ここでの最初の質問は、「使命は何か? What is your mission?」でした。これが一番基本になる質問と言えます。
ここでの基本とは、上位概念に該当するものです。具体化へと展開していく基盤になります。その展開の中核として、「事業の定義」をドラッカーは主張しました。『未来への決断』では、「環境・使命・強み」をもとに、事業の定義を考えるべきだと記しています。
2 目的範疇の「使命」と目標範疇の「使命」
ドラッカーは、5つの質問の最初に「使命・ミッション」を持ってきている一方、事業の定義にも「環境・使命・強み」と、「使命」を含めていました。両者の「使命」の概念に違いはあるのでしょうか。5つの質問の使命は、価値観を含めた概念だと考えられます。
一方、『未来への決断』における「環境・使命・強み」は、環境を分析し、使命を分析し、強みを分析せよということです。ここでは価値観よりも、客観的なアプローチでの分析が要求されています。したがって、ここでの使命は、自らの役割を明確化したものです。
価値観を核にした前者の使命の概念は、目的範疇になります。一方、後者の使命は、分析して明確化すべき対象であり、目標概念に寄り添うものです。「事業の定義」は目標を明確化するために前提となるもの、つまりは戦略に関わるものとして位置づけられます。
3 ドラッカーの著作が教科書にならない理由
かつてドラッカー研究者の上田惇生先生に対して、その時々の用語の定義をなるべく明確化して、その変遷を少し追ってみたけれども、微妙だと話したことがありました。そう、その時々で、いい加減に使っているからメチャクチャというのが、先生の答えです。
ドラッカーの著作から、厳格な定義を探ろうとすること自体が、ナンセンスという感じでした。なぜ、ドラッカーは厳格な定義をしなかったのでしょうか。時代がつねに変化していくときに、厳格な定義が自由な発想を妨げる可能性を感じていたからかもしれません。
変化を前提にして考える場合、確立した理論は、ヘタをすると現実を歪めかねません。定式化することをドラッカーは嫌っていました。その時々で考えなくてはいけないのです。考える時の指針は必要ですが、理論はなくても済みます。大切なのは洞察です。
哲学論争では、用語の概念が一致せずに不毛な議論になりがちでした。これをドラッカーは知っていたはずです。用語の定義を標準化しないということは、マネジメントを理論化しないアプローチと言えます。ドラッカーの著作が教科書にならないのはそのためです。
