■用語の定義:マネジメントを体系化するためのアプローチ
1 厳格に定義しない用語の概念
言葉は、時とともに意味が変わっていきます。それぞれの言葉で、それぞれの変化が起こりますから、変化の度合いは、言葉によって違うのは当然でしょう。少し前から、ミッションの意味が、もはや無視できないほどに多様化したことが気になっていました。
価値観を示す目的の領域の概念だったはずのミッションが、いまや客観的な基準を示す目標の領域の概念になりつつあります。「ミッション=使命」という用語が経営学の領域で、本来どんな意味で使われていたのか、もはや忘れられてしまったのかもしれません。
さらに今も、日本で広く読まれているドラッカーが、ミッション・使命という用語をしばしば使っていましたから、それが混乱を起こす要因になった可能性もあります。ドラッカーは用語を厳格に定義しませんでした。これはある程度、意図的だったのでしょう。
2 「ミッション」の4条件
ドラッカーが用語の定義を厳格にしなかったのは、変化を前提に置くと、厳格な定義では、かえって実体と合わなくなるリスクがあったからだろうと思います。上田惇生先生は、ドラッカーは、その時々で、自由勝手に言葉を使っていると語っていました。
用語がどういう概念であるのかを詰めようとすると、ドラッカーの場合、文脈でニュアンスがかなり違ってきます。気になって、原文を確認しても、どうもよくわかりません。それで上田先生に確認したのですが、答えは、厳格な定義なんてしていないとのこと。
それでもかつては、ミッション・使命には、備えるべき条件があったように思います。2004年出版の恩蔵直人『マーケティング』には、①絞り込んだ内容、②理念や価値の明示、③競争領域の明確化、④夢を備えていること…という4条件が示されていました(p.66)。
3 マネジメントの体系化・標準化
かつて示されたミッションの4条件は、いま見ても決しておかしくはないように思います。しかし恩蔵の本に記された、個別企業のミッションを見てみると、4条件に合致するものはありませんし、現在も生き延びているミッションは見当たりません。
ミッションという用語は、マネジメントの用語から欠落しつつある概念かもしれません。概念が広すぎたのではないでしょうか。ドラッカーが、ミッション・ステートメントの作成のために提案した5つの質問も、「自分たちの事業は何か」から始まっていました。
もしミッションの第一条件が「絞り込んだ内容」ならば、核心になるものを純化させる必要があります。広義で曖昧な概念を、再定義して明確化することには意味があるでしょう。しかしその場合、ミッションとは別概念になって、名称変更となるかもしれません。
マネジメントの領域での標準化・体系化は不十分なままで、定番の教科書もありません。経済学とは違います。まずは核になる用語を厳選して、明確でブレない定義が必要でしょう。経済学的なアプローチで、マネジメントを体系化するのは無理なようです。
