■訓練の効果と保守と革新の組合せ:池谷裕二『できない脳ほど自信過剰』から

    

1 できない人ほど勘違いする傾向

私たちは特段、証拠もないのに、たぶんこうだろうと思っていることがあります。あるいは、その分野の専門家が、しばしばこうなってますからと指摘してくださって、言われてみれば、そうだなあと納得した経験があるかもしれません。ある種の洞察です。

池谷裕二の『できない脳ほど自信過剰』を読んでいると、かつて思っていたことが、研究で裏づけられているのを確認することができます。題名にある通り、「できない人ほど「自分はできる」と勘違いしている傾向がある」(p.22)との調査結果があるのです。

①能力が低いと自分の能力の低さを理解できず、②他人のスキルも正しく評価できず、③能力が低くても、自分を過大評価する傾向をもつ…と推測されます。これは「ダニング=クルーガー効果」と呼ばれ、[心理学の分野で広く認知され](p.23)ているそうです。

     

2 斬新すぎるアイデアは理解されない

「ダニング=クルーガー効果」は、自分を棚に上げる傾向があって、[「バイアスの盲点」と呼ばれる]とのこと。重要なのは、[「能力の低い人でも訓練を積めば、それまでのスキル不足に気づき、自省できる」という点です]と指摘しています(p.23)。

一方、後世に与えた影響の大きな論文を検証した研究、[斬新すぎるアイデアは理解されない]ことがわかったとのこと。[誰もが何となく気づいているこの経験則が、見事に証明され]たのは、2013年のこととあります(p.24)。証明は難題だったようです。

参考文献が、過去に何度も引用された論文ならば、よくある発想だと考えられます。一方、引用されている論文の組合せが斬新なものならば、[その論文は「新しい視点を含んでいる」と判断できます](p.25)。客観指標を開発して定量化して証明したとのことです。

     

3 影響力のある論文は革新性と保守性をもつ

どうやら能力不足は訓練するしかなさそうですし、訓練すれば、それなりの効果があるということになります。一方、アイデアは既存の事柄の、新しい組み合わせ方によって生まれるということがわかりました。しかし、それだけではありませんでした。

この[発見で意外だった点は、後世への影響が強い論文は、単に革新性が高かっただけでなく、保守性もまた強かったということです](p.25)。標準的な論文を、革新的な組み合わせで[上位10~15%あたりの論文が最も後世への影響が強]いようです(p.26)。

トップ10%に入るような[これよりも革新的だとかえって影響力は下がって]いくとのこと(p.26)。正統派の勉強をしながら、そこから飛び出すような発想を持つことによって、飛躍することが可能になるのかもしれません。何となく感覚的に納得します。

当り前だと思うことでも、それについての研究の裏づけがあると、何だか安心するものです。『できない脳ほど自信過剰』には、まだ他にも多数、やはりそうかと思う研究成果が紹介されています。人によって違うでしょうが、上記2例は特に身に沁みる話でした。