■映画は感覚を鍛えてくれる:淀川長治『映画が教えてくれた大切なこと』での発言

     

1 50頁を超える充実したインタビュー

映画をあまり見ない人でも、淀川長治という人は知っています。最近では、知らない人もいるようですが、この人の書いたものは残るはずです。『映画が教えてくれた大切なこと』のインタビュー「映画がみんな教えてくれた」は50頁を超える充実したものでした。

1995年12月に出された本ですから、その年のインタビューだったかもしれません。1909年生まれの淀川の晩年(亡くなったのは1998年)に語ったものです。4歳から映画を見てきた人の映画の話ですが、それに尽きません。おそるべき実力者という感じがします。

テレビ短い時間で話をするため、[言葉を節約]して[時間と格闘]しているとのこと。そのとき[原稿は書かない。原稿を書いたら駄目。そのまま言いたくなるから]、[原稿を書いて一枚ずつめくるようなやり方をしたら駄目]と語っています(p.268)。

     

2 豊かさと子供っぽさ

[映画は芸術です]、[歌舞伎も文楽もバレエも全部見て、豊かになってから見たら面白い]、[美術を研究したり、陶器を研究したり、ヴェネチアにはどんなガラスがあるか、フランスにはどんなものがあるか、そんなことを調べてみたら面白い]のです(p.270)。

監督の方も[例えば西鶴とかうんと勉強して、『雨月物語』を暗記して](p.279)というのでなくてはいけないと言い、映画の美を強調します。「これ、いいぞ、格好いいだろう」というのは[子供っぽい]のです(p.281)。淀川は『羅生門』の雨をほめています。

[谷崎潤一郎さんも映画好きだったのね。よく僕に映画のことをお聞きになりました]という耳寄りな話もあります(p.272)。[谷崎さんの小説の面白さはあれは本当の愛][秘め事なの。谷崎さんの書いている文章はみなそれ](p.296)、むき出しはダメなのです。

    

3 近代日本文学者の一筆書き

淀川はこのインタビューで、近代日本文学者の一筆書きをしていました。谷崎について、[あの人は本当はノーベル賞をもらわんならんはずだったの](p.298)と言って、谷崎を高く評価する一方、川端康成や三島由紀夫を、一段低い文学者としています。

▼まあ川端さんも偉いけどな。「トンネルから出たら雪国だった」なんていうのは綴り方なのよ。本当はもっと深いところが欲しいのよね。芸者と一緒に泣いたりするよりも、もっと深いところ。それが谷崎さんだったんです。 p.298

▼三島由紀夫さんも立派だけれど、三島さんは谷崎さんから比べたら子供。論文的に、大学の教室的にうまいの。谷崎さんはそんな野暮なことはない。もっともっと大人の世界を持っている人。 p.298

[夏目漱石よりも泉鏡花が好きね。夏目漱石は哲学やからな。説明でしゃべるからね。泉鏡花はもう目に見える]と言うように、小説を[映画的に読んじゃう](p.305)のです。映画は感覚を鍛えてくれるから、[もっと映画を見ないと](p.292)というお話でした。