■脳の出力と入力:インプットとアウトプットの連携

      

1 成果に基づいたある種の常識の形成

失語症の会にいたのは、20世紀の終わりから21世紀が始まる頃までの10年ほどの間でした。2000年を少し過ぎたころ、おそらく2005年頃から、急速に脳の研究が広まっていった印象があります。もしかしたら「脳トレ」が流行ったことから起きた現象かもしれません。

私たちは「脳トレ」に対しては、冷ややかでした。それは後に実証されたようです。その一方で、脳の働きについて、専門家の研究が出てこなくても、ある種の常識を共有することがありました。目の前で成果が上がれば、私もやってみようと、検証が始まります。

成果が検証できれば、それでよいのです。研究があっても、それがどれほどの効果をもたらすのか、結局は個別にやってみるしかありません。こうやって私たちは、ある種の常識を蓄積していきました。いまから見ると、正しかったということがいくつかあります。

    

2 脳の出力と入力のサイクルを回すこと

茂木健一郎『脳を活かす仕事術』は、2008年の本でした。この本の一節が、印象に残っています。一般向けの本ですから、正確さは微妙なのかもしれませんが、私たちにはすぐに伝わる内容です。まさに実感していたことでした。本人が「はじめに」に書いています。

▼「脳を活かす仕事術」の神髄は、喜びの中で「脳の出力と入力のサイクルを回す」ことにほかなりません。好奇心をもって様々な「いいもの」を見て感覚系を鍛え、インプットした情報を運動系から“作品”として外部に出力し、そして成長していくことが大切なのです。 p.10

私たちは、ある種の「感覚」を見出します。様々な情報に触れるうちに自然に、ある種の感覚的なものを受け取ります。そうしたら[意識的に運動系による「出力」をすることがより重要](p.25)です。言葉にすること、アウトプットすることが不可欠になります。

     

3 運動系学習は反復でしか鍛えることができない

ある感覚的なものをつかんだら、それを表す言葉を見出すこと、まずは単語を探し、それができたら、フレーズにする練習が必要です。「いいなあ」で終わらせてしまっては、自分で検証ができません。言葉にするから、自分で検証ができるようになります。

▼脳の「出力」を高めるためには、脳に「入力」された感動した言葉、役立ちそうな情報を、友人などに実際に話して「出力」することが大切です。その結果、その言葉や情報が自分の血となり、肉となって整理されるのです。 p.30

運動系と感覚系は脳の領域が別々で、直接的なつながりがないと、茂木は言います。感覚系回路でインプットした情報を、運動系回路に送ってアウトプットすると、感覚系回路がそれを認識できるようになるのです。対象が客観化され、感覚が「見える化」されます。

思考が見えるから、検証できるということです。感覚はいいものを見ることで自然に鍛えることができますが、運動系のアウトプットの場合、[運動系学習は反復でしか鍛えることができません](p.22)という原則が働きます。まさにこれらは身に染みることでした。