■ポーターを読むなら旧版の『競争戦略論Ⅰ』を:新版との違い
1 『競争戦略論I』の新版と旧版
マイケル・ポーターの良い読者ではないため、少し前に書いたブログで、あいまいな言い方をしてしまいました。【マイケル・ポーターの『競争の戦略』を読む必要があるかと聞かれて:論文集『競争戦略論I』という存在】においてです。説明不足でした。
この本に対して、私が考えていることを、もう少し書いておこうと思います。前のブログで、『競争の戦略』の内容と日本語の訳文が、すっきりしないと書いていました。それに対して、『競争戦略論I』の方は、読むときの負担感が3分の1だと言っています。
その通りなのですが、ただし、これは『競争戦略論I』の旧版のことなのです。旧版を読んだ旨を記述しましたが、最後がいけません。[旧版でも新版でもチェック可能です]と書いてしまいました。今回は、新版と旧版について、その違いを記しておきます。
2 訳者の変更とその訳文
『競争戦略論I』の新版は2018年に出版され、所収の論文数が増え、訳者は竹内弘高から編集部へと変わりました。巻頭とその次の2論文のうち、はじめのものは2008年に記されたものであり、1979年の[論考の更新版]です。ページ数が4割増しになっています。
2番目の論文「戦略とは何か」は1996年執筆の、新版と旧版で共通した論文です。訳者が違いますから、訳文に違いがあります。英文で読む人にとっては同じですが、日本語訳で読もうとする場合には、訳文が重要です。決定的な違いが生じることがありえます。
「競争や市場の変化に素早く対応できるよう臨機応変でなければならない」、「机上のものにすぎない、と一蹴される」…が新版で、「競争と市場の変化に迅速に対応するには柔軟性が必要である」、「あまりに固定的過ぎるとして否定されている」…が旧版です。
3 旧版の『競争戦略論Ⅰ』だけで十分
「臨機応変でなければ」というのと、「柔軟性が必要」の違い、「机上のものにすぎない」と、「固定的過ぎる」では、日本語で読む場合、かなりの違いを感じます。たったこれだけの例に過ぎませんが、何となく両者の文章の違いは分かるでしょう。
旧版の竹内弘高訳のほうが、圧倒的にわかりやすい訳文です。新しいから良いとは言えません。全頁にわたって、新版と旧版では、訳文の質に大きな差があります。さらに旧版には、記念碑的な1979年論文が採用されていました。更新版が好ましいとは思えません。
その後のポーター論文への批判を受けての更新だったようですが、十分な反論にはなっておらず、論文が冗長になりました。そのうえ訳文が旧版に比べて、かなり劣化した日本語ですから、たまりません。そのため先のブログでは、旧版だけの本紹介になりました。
新版をお持ちの方がいらっしゃるのを知っていましたから、新版でも『競争の戦略』との比較は可能ですと書いたのです。しかし新版と旧版の違いを書かなかったのは、片手落ちでした。もしポーターを読むなら、旧版の『競争戦略論Ⅰ』だけでよい気がするのです。
