■理論をどう使うか:『星野リゾートの教科書』から
1 星野リゾートの経営は「教科書通り」
『星野リゾートの教科書』は、日経トップリーダー編・中沢康彦著になっています。星野佳路社長が書くよりも、わかりやすいのかもしれません。星野社長は、この本の初めのところで、経営者として実践してきたことは教科書で学んだ理論だと語っています。
▼これまでの経験から「教科書に書かれていることは正しく、実践で使える」と確信している。課題に直面するたびに、私は教科書を探し、読み、解決する方法を考えてきた。それは今も変わらない。星野リゾートの経営は「教科書通り」である。 p.12
では、どうやって教科書通りを実践しているのか、それがこの本に書かれていることだということになります。しかし、それらを読んでみると、どうも教科書通りではなさそうです。上手においしいところを選んでいます。そんなに簡単な話ではないと思いました。
2 教科書はポーターの『競争の戦略』
最初の事例は、島根県松江市の玉造温泉にある「有楽」という旅館の話です。ここで使った教科書がマイケル・ポーターの『競争の戦略』でした。個人客にターゲットを絞った高級路線を取っていた旅館が、経営に行き詰りました。星野リゾートが再生した事例です。
旅館の顧客は、団体客と個人客でした。両者へのサービスには違いがありますから、両方に対応することは、簡単ではありません。収益を悪化させるリスクがあります。そこで、ポーターの『競争の戦略』の理論から、対策を考えることになったようです。
[ポーターは、ライバルとの競争環境を踏まえながら戦略を組み立て、徹底する意義を強調する]、その際、取るべき戦略は3つあります(p.34)。(1)コストで優位に立つこと、(2)差別化すること、(3)特定領域への集中です。この理論をどう生かしたのでしょうか。
3 実践するのは理論を参考にした戦略
星野社長は、二段階の戦略を取ります。第一に[どんなターゲットに向かって「集中」していくのかをまず明確に決める]こと、第二に、コストで優位に立つのか、差別化を徹底するかを[二者択一で選び、徹底していく]という独特なアプローチです(p.35)。
ポーターは、「コスト優位」「差別化」「特定領域へ集中」の中から一つを選んで、徹底することを主張しました。星野リゾートの戦略では、一つを選択していません。[選択したのは「集中」と「コストリーダーシップ」だった]ということです(p.35)。
結局、[ターゲットを個人客に集中し、効率を高めてコストを下げ、上質なサービスの高級旅館として再生する]という戦略でした(p.35)。「教科書通り」どころか、ポーターの理論とは違う戦略です。しかし、成功しています。理論を参考にした戦略でした。
星野リゾートの戦略は、ユニクロの戦略に似ています。[これだけ魅力のある製品がこれほど安い](p.39)ということです。理論は賢く使わなくてはなりません。教科書通りというのは、インパクトのある表現でした。しかし、現実は違います。当然のことです。
