■マイケル・ポーターの『競争の戦略』を読む必要があるかと聞かれて:論文集『競争戦略論I』という存在
1 ビジネスでは不要な『競争の戦略』
おそらく戦略論の本で一番有名なのは、マイケル・ポーターの『競争の戦略』でしょう。リーダー向けの研修を受講される人たちの中で、熱心な方々は講義後も残って、質問会のようになることがあります。そういう時に、この本についての質問がでることがあります。
読んでどう思ったかではなくて、たいていの場合、読む必要があるのかという問いです。私はいつでも、基本的には読む必要ないと答えます。ポーターの発想を知ろうとか、そういう知的関心がある方なら、読む価値があるかもしれません。ビジネスでは不要です。
すでに理論的にも、問題点が指摘されています。しかし読む必要がないと考える理由は別です。厚すぎること、内容が詳細すぎること、読了までの負担が大きすぎること、理解に確信が持てないこと、我々の理解レベルではあまり使えないこと、などが上がります。
2 記述や論述をシンプル化する緊張感
講義のあとのやり取りの場合、手元に本がない状態でのお話ですから、かなりおおざっぱな話になりますが、家に戻って確認しても、やはり考えは変わりません。私には『競争の戦略』の記述内容が、さらに言えば日本語の訳文が、どうもすっきりしないのです。
「日本語版に寄せて」でポーターは、[この本は、中身が濃いために、述べられている原理をマスターするには綿密な思考と勉強が必要です]とあります。しかし思考が洗練されていないのです。記述や論述をシンプル化する緊張感が欠けている気がします。
この点で、ポーターの『競争戦略論I』は対照的です。こちらは二冊本ですが、Iだけで十分です。私はこの本の旧版を読みました。ポーターの注を見ると、最初の論文が『競争の戦略』の[序章となった]とのことです。比較すると、両者の違いが分かります。
3 『競争戦略論I』の二つの論文
『競争戦略論I』の「競争要因が戦略を決める」を読むと、『競争の戦略』の記述の要約版ではないかと思うほど、シンプルです。この本の訳文は、自然な日本語になっています。『競争の戦略』の訳文と比較すると、読むときの負担感は3分の1くらいでしょう。
「訳者あとがき」で竹内弘高は、論文集を[マイケル・ポーターの二〇年にわたる研究の集大成ともいえる本書は、いわば彼のベスト・ヒット全集]だと記します。ポーターは、論文向きなのかもしれません。明らかにシンプルで、すっきりした文章です。
2番目の論文(「戦略とは何か」)には、『競争の戦略』2章での考察を書いた後の、[筆者の最新の思索が収められている]と、ポーター自身が書いています。480頁を超える『競争の戦略』より先に、『競争戦略論I』の最初の二つの論文を読むべきです。
この二論文を読んで良かったならば、他の論文を読み、さらにと思うなら『競争の戦略』へと進むのが自然でしょう。もういいと感じたなら、その先は不要です。二論文で約100頁ですから、チェックする価値はあります。旧版でも新版でもチェック可能です。
