■坂村健のふりかえり:『不完全な時代』の「はじめに」から

      

1 自分のナイーヴさに気づく

坂村健はTRONプロジェクトのリーダーでした。TRONは仕様をオープンにした日本発のOSであり、現在でも組み込みOSとして広く使われています。しかし、よくぞ御無事でという気もしないではありません。嫌がらせのようなことも受けてきました。

1989年、米USTRから不公正貿易取引の対象にされます。坂村は『不完全な時代』で、[異議申し立てなど行い最終的にはシロ認定を受けることとなったが、どうして不公正貿易なのか、何しろまだ売っていなかったし、もちろん輸入もしていなかった](p.8)のです。

これでは不信を感じるのも当然でしょう。しかし[今になって考えれば、その当時の自分の怒りがいかにナイーヴなものだったかわかる]と記しています(p.9)。『不完全な時代』は2011年の出版です。およそ20年が経過して、こう振り返る余裕ができました。

     

2 オープン仕様が花盛り

坂村は[新規の使用を皆で協力して作り、それをオープンにして誰でもが使えるようにすればいいと考えた]のです。これは、アメリカの利害に反しました。米国は[「仕様は財産で使用には対価が必要」という][「常識」を確立しようとしていた]のです(p.9)。

実際、[その後の米国のコンピュータビジネス(と、その代理人になった日本人に)莫大な利益をもたらす]ことになります。こういう時に、[「オープン仕様を皆で利用すればいい」などという][理想論には出番はない]のです(p.9)。しかし状況は変わります。

▼現在のコンピュータの世界は、LinuxにしろAndroidにしろ、オープンが花盛り。その流れを作ったのも、独禁法でマイクロソフトを訴え政府調達でLinuxをメインにし始めた米国政府だし、それで最も儲けているのも米国の会社だ。 p.9

     

3 「科学・技術+ビジネス」の原則

TRONは組み込み式のOSとして生き残り、特定分野では[事実上の標準となって]います。このプロジェクトを通じて、[コンピュータという分野が純粋な科学・技術だけで成り立っているのではないと、私に徹底的に思い知らせてくれた]のでした(p.10)。

坂村は、TRONプロジェクトを通じて鍛えられたのです。米国のベンチャーが強いのは、[技術力の差]ではなく、[ビジネスセンスの差。つまり科学・技術+ビジネス](p.10)で考えるかどうかの差だといえます。現在の日本でも、この問題は解消されていません。

ビジネスであるならば、当事者は、必死であれこれ言うでしょう。日本人は黙りがちですが、しかし必要な主張はしなくてはなりません。自分たちの技術に自信があるならば、それを自分たちで守る必要があります。あるいは、発展させていかなくてはなりません。

だからビジネス感覚が必要です。[医学を取ってからしばらく勤め、次に経済の学位を取りいつの間にかコンピュータベンチャーというような経歴に人がゴロゴロいる](p.10)。そんなアメリカ人に勝つために、どうすれば良いのでしょうか。現在の問題といえます。