■革新は科学より技術、理論より実践から:石井威望『科学技術は人間をどう変えるか』を参考に
1 突破口は技術から
科学技術という言い方をしますが、科学と技術の概念に違いがあるのは言うまでもありません。科学と技術について考えるとき、石井威望の『科学技術は人間をどう変えるか』は参考になります。1982年の講演をもとにして、1984年にまとめられた本です。
[科学と技術は相互に密接な関連を持ちながら、同時に対立しあう側面も]あり、[科学は知識そのものを目的]とし、[技術は産業や経済に役立つことがその使命]になっています。[科学は消費的であり、技術は生産的]ということができるでしょう(p.18)。
さらに大切なことは、[科学が理論的なものを、技術が生産現場の経験主義的なものを代表することもある]という点です。[科学技術の進歩の突破口はしばしば新しい技術が既存の科学理論を乗り越える形で切り開いてきたということ]になります(p.18)。
2 理論は新しく発見された事実のあとを追いかける
マルコーニは1901年、大西洋横断の無線通信に成功しました。電離層の存在が知られておらず[当時の科学理論では、直進する電波が球形の地球上の遠く離れた二点間を結ぶということは説明できなかった]ため、[理論から見れば常識外れの試み]です(p.19)。
石井はここに[実践を重視する現場主義的な志向を感じ](p.19)ます。[情報が欠落した領域][既成の科学理論で説明できない]場合、[既成の理論から見れば粗雑で完璧性にほどとおい]ものでも、[何らかの作業仮説を設けなくてはならない](p.20)のです。
[自分の経験や観察に徹底してこだわ]った結果、[生の事実が投げ出されたときに、その現象を説明するために科学者たちは既成の理論をつくりかえたり、新しい概念を導入]します。[理論はいつも新しく発見された事実のあとを追いかけている]のです(p.20)。
3 革新的で地道なアプローチ
[何らかの仮説に基づいて目標を設定する]が、[そこに至る具体的なプロセスや手段、道具]は分かっていません(p.25)。[情報が不完全な状況で私たちは行動しなければならない]のです。現代は[ルネサンス期のヨーロッパ]の時代と似ています(p.28)。
当時、ヨーロッパはアラビア科学に出会います。[ギリシアの科学的伝統]が流れ込んだ、[アラビア科学の影響がなかったならば、ルネサンスのような文明の大変革は生じなかった]でしょう(p.30)。突破には、異分野のお手本と、ある種の圧力が必要なようです。
シュライバーは『航海の世界史』で、15世紀に蒸気船が発明されていたなら[アメリカ大陸の発見は二、三百年遅れたのではないか]と言ったそうです(p.34)。蒸気船には燃料補給が必要なので、遠洋航海は不可能でしょう。風力を使う帆船だから冒険が可能でした。
新しいことをする場合、既成の理論にこだわりすぎないで、異分野のお手本を参考にしながら、「自分の経験や観察」による「現場の経験主義的なもの」から仮説を見出し、実践してみるというアプローチが有力なようです。これは地道なアプローチとも言えます。
