■クリステンセンの論文「セグメンテーションという悪弊」

     

1 ハーバードビジネスレビュー掲載の論文集

マーケティングの巨人であるレビットは、思いのほか知られていません。しかし、もしマーケティングの文献を読む必要があるなら、レビットの論文を読むべきだろうと思います。『T・レビット マーケティング論』は繰り返し読む価値のある圧倒的なものです。

レビットに比べると、クリステンセンをご存じのかたは多いことでしょう。1997年に出た『イノベーションのジレンマ』は定番の本だとされています。本になる2年前に、ハーバードビジネスレビュー(HBR)に、この本のもとになった論文が掲載されました。

レビットの本と同様に、HBRに載った論文をまとめて本になっています。『クリステンセン 経営論』です。一つひとつの論文は30頁程度の分量ですから、本を読むよりもエッセンスが詰まっていて、一通り見通すのによいかもしれません。少し読んでみました。

    

2 がっかりした「イノベーターのDNA」

論文は10年以上前のものです。時間の経緯があります。かえって時間がたってみると、その価値が見えてくるということがあるでしょう。レビットの論文がそうでした。クリステンセンの論文はどうでしょうか。15ある論文を、面白そうなものから見ていきました。

「イノベーターのDNA 5つの『発見力』を開発する法」という論文があります。2009年のものです。5つの発見力とは、「関連づける力」「質問力」「観察力」「実験力」「人脈力」になっています。並んだものを見る限り、まずは妥当な5項目なのでしょう。

しかし[六年間にわたって、研究を重ねて](p.325)、[イノベーティブな企業家二五人だけでなく][3000人超の経営者と500人超の人々についても調査した]、[調査の結果][五つの「発見力」が明らかになった]とあるだけです。がっかりします。

    

3 必読「セグメンテーションという悪弊」

「プロフェッショナル人生論」は、[当時、ハーバード・ビジネス・スクール史上最多のダウンロード数に上った]そうです(はじめに ii)。好みもあるでしょうが、あえて読む価値のあるものであるとは思えません。その他の論文も、すでに色あせています。

扱われている問題は大きなもので、それらについて、どうも空振りをしているのではないかという懸念がぬぐえません。期待に対して、何も応えていないという感覚が残ります。私がざっと読んだ限り、現時点でヒントを与えてくれると思った論文は1つのみです。

「セグメンテーションという悪弊 『ジョブ』に焦点を当てたブランド構築が必要」には、レビットが登場します。「消費者は四分の一インチ径のドリルを買いたいのではない。彼らが欲しいのは四分の一インチの穴だ」というレビットの言葉を提示しています。

[顧客は何らかの「ジョブ」を処理する必要があるだけなのだ]から、[マーケターの役目は][どのようなジョブが発生するのかを理解すること]なのです(p.191)。『ジョブ理論』に発展した論文であり、今後も残るものでしょう。必読といってよい論文です。