■マーケティングの教科書にもなる本:斉須政雄『調理場という戦場』

     

1 人間としての原点となる言葉という手段

先ほどまで、新しい講座の企画を作っていました。新しいことを考える時に、どうしても言葉を使うことになります。これは脳の機能から言っても自然なことでしょう。人間の場合、知覚する脳の領域と、それを言葉にして発信する脳の領域は別だからです。

斉須政雄は『調理場という戦場』の中で、[自分の意志を明確に伝えたいともどかしく思うなら、まずは自分の意志を、自分で明確に迅速に把握しておく必要がある][言葉という手段がいかに人間としての原点であるか実感]したと語っています(p.46)。

これはフランスで修行中のことです。フランス語の習得するのに、[日本で生まれ育った人間が日本語でさえうまく表現できないことを、フランス語で伝えられるはずがない。日本語での表現が的確になれば、フランス語も的確になる]と考えたのでした(p.46)。

      

2 良いアイデアを無理なく具現化

言葉を大切にすること、さらに[良いアイデアを無理なく具現化していく]ことも大切です。斉須は、実践家としての立場から、アイデアを思いついた後、[そこからがリーダーの仕事になるのです]と語っています(p.118)。アイデアだけでは実践できません。

[アイデアが一だとしたら、そのアイデアが使えるか使えないかを見わけることに一〇ぐらいの力がいる]、[最も大切な「アイデアを実用化できる生産ラインを作ること」には、一〇〇ぐらいの力を必要とすると感じています](p.119)。実用化が大切です。

そのためには[スタッフが力を合わせれば無理なく生産できるようなライン作り]が必要になります(p.119)。その時、自分の意向を、スタッフにシンプルに伝えられなければなりません。[アイデアの核がわかっていれば、シンプルに伝えられる]のです(p.120)。

     

3 マーケティングの教科書にもなる本

斉須は[アイデアは、実用化なしでは生きられない](p.119)、[アイデアがあればみんなが愛してくれる、どこの国の人にも愛される]という言葉を大切にしています。これは本田宗一郎の著書の中の言葉を[ぼくなりに覚えている言葉]とのことです(p.120)。

ここから進んで、斉須は独自の考え方を示しています。[独創的なものは、それほど「遠く離れた尊いもの」ではない][一般的なもののすぐそばにあるはず]だというのです。つまり[一般性と独創性とのきわどい接点を見極めたもの]になります(p.121)。

▼独創性は、ふつうの人が「あれをマネしたい」と思うような気持からかけ離れてしまうほどではいけないと思います。それでは、誰も飛びついてくれないものになるから。需要のないものは、商品にはなりません。 p.121

マーケティングの本以上に、この本から学ぶことがあります。少なくとも、教科書的な理解をしただけでは不十分であり、アイデアを実用化する実践家の発想から学ぶことが必要でしょう。そうした本のなかでも、斉須政雄『調理場という戦場』は定番の本です。