■論文というゲームのルールブック:丸谷才一『思考のレッスン』と鹿島茂の解説

    

1 魅力的な部分をピックアップ

自分にとって大切な本というものがあるはずです。その本のすべてが大切という本もあるでしょうが、ごく一部でも、圧倒的だった本があります。その本の中に、自分にとって重要な大切なエッセンスがあれば、それがわずかな記述であっても、十分でしょう。

本の美点を示す場合、その本の魅力的な部分をいくつかピックアップするだけで、その本の良さが伝わります。丸谷才一の『思考のレッスン』につけた鹿島茂の解説は、そうしたものの中でも、非常にうまくいったものです。学生との対話の形式をとっています。

学生が問います。その答えが、丸谷の本の中にあるのです。どんな本を読めばよいのかという問いに対して、[読みたい本を読むしかないんです](文庫版 p.112)という本の一節を示します。面白くなかったら、読むのを中断するという意見も本にあるものです。

      

2 論文というゲームのルールブック

鹿島茂は『思考のレッスン』について、この解説で[論文指導にこれほど役に立つ本もない](p.271)、[これは論文というゲームの規則が載っているルールブックです](p.278)と記しています。そうかもしれません。そう思わせるように、鹿島は書いています。

本を面白がって、[その快楽をエネルギーにして進む](p.103)とか、[たくさんの本の中にあって初めて、一冊の本は意味がある]、[孤立した一冊ではなく、「本の世界」というものと向き合う](p.114)などを引き、この本のエッセンスはこれだと示すのです。

どうやら鹿島の方に、あるべき論文の指導ルールがあって、それに合わせた体系に沿って、丸谷の本のエッセンスを並べているという趣です。実際、解説にあげられた言葉が載っている頁は、ある程度、集中しています。そこがこの本の読みどころということです。

      

3 エッセンスを示して本へと導く解説

鹿島は、論文を書くためには、特に文学部の場合、本を読まなくてはならないという、ゲームのルールを示します。複数の本を読んで、[「比較と分析」ということが非常に有効](p.200)だという部分を示したうえで、少し先での議論に関連づけているのです。

[同種のものが別の外観で存在することを発見する、同類を見つけて同類項に入れる](p.216)という言葉を引き、同種、同類から相違を見つけることも大切だと指摘します。そのとき[ホームグランドを持っていれば、一層深い読み方ができる](p.141)でしょう。

[大事なのは問いかけ]であり、それは[自分自身の発した謎]でなくてはならないのです(p.180)。それを[思い続けて謎を明確化、意識化すること]が必要になります(p.181)。そうなれば[仮説を立てること](p.208)ができるようになるということです。

鹿島の引いた丸谷の文章は、しばしば丸谷が他人の考えを持ってきているところでもあります。丸谷自身が他人から学んだことです。鹿島は丸谷の本を素材にして、論文のルールブックのエッセンスを示しました。丸谷の本への導きとしても、優れた解説です。