■成功事例:佐野優子コンサートを聴いて

   

1 KITTEでの佐野優子ミニコンサート

先日、佐野優子さんのピアノを聴きました。東京駅の近くにあるKITTEという施設のアトリウムで開かれたミニコンサートでのことです。お名前も知らないでいましたが、30分前についたときには、すでにかなりの人が集まっていて、すぐに人垣ができました。

ハイドンのファンタジア、ショパンの雨だれ、シューベルトの即興曲、ドビュッシーの喜びの島、アンコールがリストのラ・カンパネラという曲目です。オープンなスペースですが、いい音でした。理知的な演奏といってよいのでしょう。そんな印象を受けました。

ちょっとした偶然で時間ができて立ち寄れたのですが、たぶん今後も忘れずにいると思います。ショパンの雨だれを聴いているとき、低音の制御がピタッといっているのが聴こえてきました。かすかな音の違いに反応するうち、音楽が聴こえてきた気がしたのです。

     

2 シュナーベルのレッスン

音楽を聴きながら、別のことが思い浮かんでくるのは困ったことでした。あくまでも演奏を聴いていたはずですが、ドラッカーの『傍観者の時代』にあったシュナーベルのピアノレッスンのことが思い浮かんだのです。あの本のなかでも一番印象的な場面でしょう。

あるときドラッカーは、友人の姉がシュナーベルのレッスンを受けているのに立ち合ったのです。14歳でプロデビューするような才能のある人ですから、見事なテクニックで演奏します。シュナーベルも、彼女をほめるのです。しかし、そこから話が展開します。

[リリー、君はどちらも上手に弾いた。でも君に聞こえるようには弾いていなかった。聞こえると思うものを弾いた。そういう弾き方はまやかしだよ]と指摘するのです。それから[彼はシューベルトを彼に聞こえるように弾いた]のでした(p.75 『わが軌跡』版)。

      

3 うまくいっているものを探し、成果を上げる人を探すこと

シュナーベルがピアノを弾くと、[突然リリーにもシューベルトが聞こえた]のです。彼女の顔つきがそれを表していました。[シュナーベルは「じゃ弾いてごらん」と言]い、リリーは[子供らしく素朴に、しかし自信をもって弾いた](p.75)のです。

[そのとき私にシューベルトが聞こえた]とドラッカーは書いています(p.75)。ここで「聞こえた」というのが、どんなものなのか、何となくわかる気はしていました。演奏会で、そんな気がすることがあったからです。ところが、最近忘れていました。

「雨だれ」はなじみのある曲ですが、生の演奏を聴くのは本当に久しぶりです。ドラッカーの言う「聞こえた」とは違うものかもしれませんが、あの低音部の音を聴くうち、私なりに聴こえた気がしました。それが次のシューベルトの演奏に続いていったのです。

ドラッカーは[私がそのとき一つの方法論を会得した]と記します。[私にとっての正しい学び方とは、うまくいっているものを探し、成果を上げる人を探すことだ][成功から学ばなければならない]のです(p.76)。佐野優子のコンサートは、その成功事例でした。