■経済発展の条件:事情変更の禁止・契約絶対の原則
1 腐敗堕落と経済発展
資本主義の仕組みは、悪徳があっても繁栄が続く制度を備えていると言われます。小室直樹は『中国原論』で、アメリカ経済の大躍進と中国経済の違いを指摘していました。両国における腐敗堕落の時代に、経済発展のありようが大きく違っていたのです。
中国では、腐敗堕落は経済発展を阻害しました。一方、[19世紀末から20世紀初めにかけて、アメリカ合衆国の政・官・財界は贈収賄はじめ、腐敗堕落に満ちあふれていた]のに、[この時代ほどアメリカ経済が大躍進をとげた時代もない]のです(p.78)。
なぜか? [資本主義における賄賂は、不合法ではあるが、その実、役人の行為の購入を意味する]ので[役人の行為の売買について契約が成立]したとみなされます。そのため[契約は守らなければならない。契約は絶対](p.76)という行動が維持されるのです。
2 資本主義の構造と機能
契約絶対の原則が、なぜ重要なのでしょうか。役人を買収したわけですから、悪徳に違いありません。しかし契約が守られるならば、役人行為はスムーズに機能します。そうなると、他の市場が機能している限り、消費者も企業も目的合理的な行動が可能です。
▼資本主義において契約は絶対である。契約が結ばれてしまえばそれまで。契約は必ず、文面(literary)どおりに実行されなければならない。事情変更の原則は許されないというのが資本主義の大原則である。 p.86
悪徳が入り込んでも、それが契約の形態をとるなら事情変更は認められません。契約が守られます。これが資本主義の構造と機能ということです。ところが中国では腐敗堕落に伴って、事情変更が起こります。その結果、経済発展は阻害されることになるのです。
3 経済発展の条件
アメリカに限らず、資本主義の国々なら、ルールを変更せずに守るという前提がありますから、それが機能する限り、悪徳が経済全体の発展を阻害しないということです。これはニーアル・ファーガソンが『劣化国家』においても語っていたことでした。
▼適切な制度を備えた社会は、そこに暮らす人々が不品行を働いたとしても、繁栄できるということだ。18世紀のイギリスを、世界のほとんどの国よりも豊かにしていたのは、聖書の教える徳ではなく、ひどく世俗的な悪徳だった。 p.46
悪徳が許されるのではなくて、ルールが守られる一面があったからこそ、発展の阻害にならないのでした。契約を守らないと許されない、制裁を受けるという制度が資本主義だということです。この制度上に、悪徳を許されないルールが形成されてきたのでした。
中国の場合、人間結合によって事情変更が起こります。契約が絶対ではないのです。これでは、相手方は目的合理的に行動できません。契約を守り、事情変更を禁止することなしに、経済の発展は難しいということです。長期的な視点で言えば、こうなります。
