■定義の問題から考える経営学の教科書
1 標準的な定義が未整備
法律の基本書を読むと、キーワードについての定義がきちんとなされています。基本となる用語の定義が標準化されていないと、正確な議論ができません。法律は古くからある学問ですから、基本用語の概念が安定したものになっています。
ビジネスの世界では、次々と新しい用語が出てきて、そうした用語が明確な定義なしに何となく使われていくことがありがちです。そのうち用語の概念に齟齬が出てきて、議論ができなくなることがあります。やはり法律のように、用語の定義は必要です。
マネジメントの用語には、標準的な定義が整備されていない状態にあると言えます。カギになる用語を定義し、きれいな体系を作って、それが実践でも使えるようにすることが必要です。定義を明確にすることも、使える体系を作ることも簡単ではありません。
2 目的と目標
経営学の教科書はまだ確立されていないとも言われています。経済学の場合、サミュエルソンの『経済学』が出て、教科書がその後作られ、いまはマンキューのものが教科書として定番のようです。社会科学では、経済学が例外的な存在かもしれません。
経営学という学問とマネジメントでは、どこか違いを感じます。経営学の紹介でも、しばしば目標とミッションが混同されます。しかし、ドラッカーの『マネジメント』などでは、目的とミッションが並び、目標がその下の階層に位置付けられてきました。
目的と手段がかつての哲学的なアプローチでした。ルネサンス以降、コペルニクス、ケプラー、ガリレオ、ニュートンらによって科学哲学が発達して、合理的で客観的な考え方が重視されるようになります。こうした科学からのアプローチは、目標と手段でした。
3 実際の経営の発想との近さ
目的の概念と目標の概念は明らかに違ったものです。ミッションは目的の範疇になるものでしょう。これは状況に合わせて変化するものではありません。簡単に変わるものでは困ります。一方、目標の範疇になるものなら、環境変化に合わせて変わっていくものです。
目的の範疇のものなら、価値観が入ってきます。この点が目標との一番の違いです。価値を排除することによって、科学的なアプローチが成立しました。目標は、価値を排除した客観的な水準を示すものです。こうした発想は、哲学のほうにあります。
経営幹部の方々から話をお聞きすると、新しいこともやらなきゃいけないし、その場合はリスクがあるので、それをコントロールしていかないといけないとおっしゃいます。何をするのかを決めるときには、目的が問われます。こちらを優先して考えるようです。
そのあとに目標が出てきて、客観基準での管理、コントロールが必要になります。経営学の本を読むよりも、哲学や法律などの古くから発達してきた学問から学ぶことのほうが、必要なのかもしれません。そのほうが実際の経営をする人たちの発想に近いのです。
