■アーノルド・ベネット『自分の時間』(How to live on 24 hours a day)再読

     

1 何かを始めたいのに始めていない

ひさしぶりに、アーノルド・ベネットの『自分の時間』を取り出しました。「How to live on 24 hours a day」の翻訳です。時間についてのあれこれの話を聞くうちに、ベネットはどう書いていたろうかと、気になりました。短い本ですから、すぐ読めます。

何で時間の使い方を論じるのかについて、ベネットはその理由を、こんな風に書いていました。何かをやりたいという欲求があるのに、[「何かを始めたいのに始めていない」という焦りの感情が生じ、いつまでたっても心の平安が得られない](p.41)からだと。

これは、[ある程度、精神的に成熟した人たちに共通する][一種の普遍的な知識欲]というます。[この欲求は非常に強い欲求なので]、優れた学者でも[より多くの知識を追求するあまり、自らの本業の限界をついつい超えてしまう](p.41)のです。

2 ただ始めさえすればいい

ベネットは、[楽なやり方、王道などといったものは存在しない](p.47)と考えています。[ただ始めさえすればいい](p.49)、[初めからあまり多くのことを企てないように][つまらない成功で大いに結構だ](p.52)という、実践を重視する主張です。

▼ひょっとしたら読者の皆さんの中には、これぞと思うスケジュール表を書き上げることができれば、それでもう理想的な生き方ができるものと思っておられる方もいるだろう。私に言わせれば、そんな甘い考えはすぐにお捨てになったほうがよろしい。 p.48

ベネットはイギリスの20世紀を代表する小説家です。この本は1908年に、まず雑誌に紹介され、1912年に出版されたようだと、訳者の渡部昇一は書いています。名著と言われてきました。その通りでしょう。100年以上前の記述が、そのまま現代でも通じるのです。

3 一番の本質的な頭脳のトレーニング

時間を節約と言っても、1週間でどれほどの時間が確保できるのか、そう多くは期待できません。ベネットは週に7時間半という具体的な数字を出します。[週6日、毎朝の少なくとも30分間、そして週に3晩1時間半ずつ、合計すると週7時間半](p.78)です。

この時間で何をするのでしょうか。[自分の思考をいかなる時でも、いかなる場所でも、思いのままに支配できるように](p.90)、頭脳という[ものを考える機械を訓練する](p.91)こと。まずは[一つのことに思考を集中してみる](p.88)ことからになります。

本質は、ここにありそうです。時間についての議論は、さまざまになされています。もう一度原点を確認しようとして、ベネットの本に戻ってきました。知識の重要性が高まっているからこそ、現代ではますます、自分の頭を働かせるトレーニングが大切です。

こうした意識をもってトレーニングをしていけば、1週間に7時間半でも、たしかに効果があるだろうと思います。何かを始めるべきなのに、それをしていないということの、もしかしたら一番大切なことかもしれません。身にしみる記述がいつくもありました。