■宮崎市定の勉強法:頭が悪くならない工夫
1 20世紀最高の東洋史学者・宮崎市定
20世紀の世界最高の東洋史学者は宮崎市定ではないかという説があるくらい、飛び抜けた存在であった宮崎が、自分の勉強法について語った文章があります。案外知られていません。『論語の新しい読み方』に所収された<「論語読み」の愉しみ>のことです。
宮崎は科挙の研究もしていますから、受験勉強のやりすぎについての警戒がありました。優秀だった人がダメになるのは、頭が悪くなるからだということです。だから[とにかく頭が悪くなるようなところは、しばらく放っておきました](p.298)と記します。
基礎学力をつけたら、やりすぎてはいけません。[漢文を習い、経書などを読んでいくうちにだんだん頭が悪くなってくる。だいたい、ある程度、漢文に精通する頃には、すっかり頭が悪くなってしまうのです](pp..297-298)。では、どうすればよいのでしょうか?
2 頭を悪くしないように気を配ること
[若い人が、もし外国語のわからない本をたくさん読んだり、難しい解釈をやれば頭がよくなるとみるのは、大変な間違い]であり、[頭を悪くしないように気を配りながら業績を上げるには、あまりカッカッとして、集中的にやってはダメ](p.298)と言います。
[少しずつ折に触れて研究を続けるというのが賢明なやり方]です。ゆっくり続けていくうちに、[かなり学問が見渡せるようになってきてから、もう一度立ち返って、その部分を一生懸命に読んでみると、何とか分かるようになった]ということでした(p.298)。
学問に向く適性の点からすると、[意志が強く、ストイックに、一日何時間と決めて勉強をするタイプは、かえって向いていないのではないでしょうか](p.298)。そうではなくて、[趣味的にやるのが本当の学問だと思っている](p.299)ということです。
3 時間を味方につける継続的な勉強
じつは、宮崎のような考え方で学問をするのが、案外難しくなっています。[業績主義が横行し、早く業績を上げなければ、ポストも、いろいろな学術賞も取れなくなってきましたが、これは、我が国の学問の将来にとって、まことに憂慮すべきことです](p.298)。
がつがつ勉強すると、大切なものが見えなくなってくることがあるのでしょう。実際に、何十年かたってみると、かつて評価された学者の本も、ひどく冷静に見えてきて、あららとなります。時間を味方につけないと、かえって成果が上がらないということです。
最低限の基礎を身につけたら、思いつきを活かして、ここはどうか…と、何度となく問いかけて理解を深めていかないと、高いレベルに達しないということでしょう。集中的な勉強では、ルーティンワークになってしまいます。オリジナルな仕事ができないのです。
宮崎は自分の『論語の新研究』について、[私が同書を発表したもう一つの狙いは、現在の学問のやり方に対する批判でもあったわけです]と語っています。ビジネス雑誌の『プレジデント』のインタビューだからこそ、率直な発言になりました。貴重な証言です。
