■セカンド・ルネサンスの時代:木村尚三郎『文化の風景』から
1 ルネサンスとは「掘り起こし」のこと
木村尚三郎は1997年刊の『文化の風景』で、ルネサンスをひと筆書きしています。[人間の生き方の典拠を古代ギリシア・ローマに求め、書物の掘り起こしを行い、それらを読んで肥やしとし、市民文化として花開かせた。それがルネサンスである](p.165)。
[ルネサンスとは「掘り起こし」のことであり、当時における人間の生き方研究が、ヒューマニズムであった](p.165)ということです。「十四・十五世紀のイタリア、十六世紀のヨーロッパ」の人々が、なぜ古代に目を向けたのでしょうか。木村は言います。
▼ルネサンスの時代は、開墾運動がストップし、ペストが流行った、先行き不透明の、暗い時代であった。中世のスコラ哲学は衰退し、依拠すべき大思想は見当たらない。そのとき人は過去に生きる知恵を求め、過去の掘り起こしに情熱を傾け、過去に意外な新しさを見出す。 p.166
2 現代はセカンド・ルネサンスの時代
掘り起こされた本とは[稽古に値する書物、つまり稽古本こそがクラシック(古典)]ということです。[クラシックとは学ぶに値する、クラスで一番上等な書物ということ]になります。また[学ぶに値する稽古曲が、クラシック曲]ということです(p.166)。
「故きを温ねて新しきを知る」ということでしょう。経済成長が終わり、頼るべき思想がなかったら、過去の一番上等なものから学ぶしかありません。ルネサンスの時代は、ギリシャ・ローマに学びながら、それとはずいぶん違ったものを生み出しました。
木村は、1997年の段階で、日本の停滞が長く続くと見ていたらしく、[現代はセカンド・ルネサンスの時代](p.166)だと書いています。[現代は確かに、過去を掘り起こし今日に生かすときで](p.80)す。どんな過程が必要なのか、確認しておきましょう。
3 セカンド・ルネサンス実現のための過程
過去の一番上等なものから学ぶということは、[過去の美しい、いい生き方を人類共通の財産として、先行き不透明な現代に生かそうとするものである]というのが原則でしょう(p.80)。このとき、何を、どうやって現代に活かすのかが問題になります。
過去から学ぶ場合、現代における[グローバルで合理的な交通・共生関係の存在が、これを可能に]するはずです。学ぶべきものは、ギリシャ・ローマに限りませんし、学ぶときには、[合理性をむしろ表面化させず「隠し味」とする]ことが必要になります(p.80)。
セカンド・ルネサンス実現のための過程は、(1)「掘り起こしに情熱を傾け」、(2)「学ぶに値する」ものを見出し、(3)稽古を通じて「過去に意外な新しさを見出」し、(4)「美しい、いい生き方」を現代に生かし、(5)それを「文化として花開かせ」るものです。
大がかりな知的生産の過程とみることもできます。個人の場合、学ぼうという意欲を持って、自分にとっての古典を見出し、そこで新たに見出したものを活かして、自らの生産をなす…といったところでしょうか。約30年前も今も、必要なことに違いありません。