■ウクライナとロシアの関係:堺屋太一『風と炎と』第3部を読みながら

       

1 ソ連の消滅が決定的になった要因

堺屋太一の『風と炎と』第3部が出てきました。時流解説の本です。1部も2部もあったはずですが、見つかりません。この巻だけ読んだようです。1992年の話なので、随分前のことですが、ページをめくるうちに、だんだんこの時期のことを思い出してきました。

ソ連の崩壊後、日本ではバブル崩壊後の話です。たとえばこんな話があります。[ウクライナの国民投票が圧倒的多数で「完全独立」を選択、ソ連という国家の消滅が決定的になった1991年12月1日、私はモスクワでその報せを聞いた](pp..10-11)とのことです。

一次的にCIS(独立国家共同体)を結成したものの、[それから何日か経つと、この「緩やかな共同体」が一つの国家として機能するのは非常に難しいことがわかってきた]のでした。[ロシアとウクライナとの関係が円滑ではない]ことが根底にあります(p.11)。

      

2 二百年間続いた帝政ロシアの崩壊

かつて読んだとき、その後のロシアの侵略のことなど、予想もしていませんでした。しかしソビエト崩壊の後、もはや[帝政ロシア以来二百年間も一つの国であり続けた地域がバラバラになる](p.11)のは、ウクライナがポイントだと、そこに印がついています。

▼ウクライナは、ソ連を構成した共和国の中で、ロシアに次ぐ人口と経済力を持つだけではなく、民族的、歴史的、文化的に、最もロシアに近い。そのウクライナがいち早く完全独立を目指して動き出した。まず独自軍を創設し、独自通貨を準備、すでにその前触れの商品引換券(クーポン)を発行している。旧ソ連の黒海艦隊も、ロシアやグルジアと分割することに決まった。 pp..11-12

これを元に戻したいというのがロシアの侵略だったのでしょう。しかし、1992年の時点でも、[CISの分離傾向-その背後には、ロシア共和国の経済不振がある](p.13)ということでした。現在も問題があるでしょう。しかし、それ以上に大きな問題があるのです。

      

3 経済よりも意識・感情を優先

1992年当時、CISが継続すると考える人もいました。[CISの「EC化」論]です。[この見方は、経済面での事実認識では間違っていなかったが、社会主義文化崩壊後の民族意識、つまり各共和国の社会主義観の差を軽視していた]のでした(p.29)。

[アゼルバイジャンやモルドバばかりか、ウクライナ人までが民族感情を経済利益よりも優先させる傾向](p.29)を見せるとは、予想できなかったということです。これは、そのまま現在のロシアによる侵略の効果を言い表しています。もはや感情は元に戻りません。

ウクライナという最もロシアに近い国が、経済的要因ではなく、意識・感情の面から完全に独立意識を持つことになる、そのことを徹底させたのが、今回のロシア侵略の効果です。この侵略の間に、ウクライナ軍の兵器は、ロシア製から欧米のものに代わりました。

もし仮に、ロシアが有利な停戦条件を獲得したとしても、もはや友好関係は成り立ちません。各国とも、積極的にロシアへの投資をすることもないでしょう。ロシアも意識・感情を、経済よりも優先させた形です。堺屋の文章を読みながら、こんなことを考えました。