■優れたテキスト・ブック『概説西洋史』:西尾幹二「ヨーロッパ文化と現代」から

      

1 優れたテキスト『概説西洋史』

有斐閣選書の『概説西洋史』(木村尚三郎・本間長世 編)は1977年に出た本です。大学教養課程とか短大用のテキスト・ブックでした。いまは古本を探すか、図書館で見つけるしかありません。幸いなことに、古本を入手できたので、あらためて読んでみました。

編集を担当した木村尚三郎と本間長世の書いた部分は、今でも読む価値があります。木村のものは「1 ヨーロッパの歴史と文化」と「4 西ヨーロッパの成立」。本間のものは「10 Ⅰ アメリカ史の特質」と「12 Ⅰ アメリカ文化と現代」です。

これ以外に、村上陽一郎「6 Ⅲ 近代科学」と西尾幹二「12 Ⅱ ヨーロッパ文化と現代」が読む価値のあるところだろうと思います。ことに西尾論文は、この本の最後を飾るのにふさわしい、必読というべき素晴らしい文章でした。コンパクトな12頁の文章です。

      

2 「西欧の没落」?

西尾は、1918年に出されたシュペングラーの『西欧の没落』を取り上げます。[第一次大戦の国土の破壊と荒廃とによって][ヨーロッパ市民の生活風俗が大幅に一変した](p.252)うえに、[学問や芸術の絶対的普遍性が疑われ]ることになりました(p.253)。

これが「西欧の没落」です。[ヨーロッパの歴史感覚はある種の相対性を経験させられる](p.253)ことになります。しかし西尾は[彼らの価値観が根底から揺らいだとはどうしても思えない](p.235)と言うのです。ヨーロッパ的な思索方法は変わりません。

▼今まで彼らにとって了解不可能であった世界を前にして、彼らはそれを自己変革の材料としてではなく、対象認識として把握し直そうとする従来と同様の西欧的視線を堅持しているからである。 p.235

      

3 現在における世界的な問題

西尾は[20世紀に入って以降の「文化人類学」や「比較文明論」の各業績は、表向きは異文化への理解と寛容の上に成り立っているが、裏返せば、西欧的世界解釈の新しい拡大形式]だろうと記します(p.256)。しかし日本など非ヨーロッパ側にも問題があるのです。

ヨーロッパに[対抗する学問上の方法論を持ちえず][ヨーロッパから借りてきたこの対象認識の方法を採用するしかなくなっている]からです(p.256)。これはこの文章から50年近く経っても変わりません。非ヨーロッパは「没落」するほどのものがないのです。

一方、ヨーロッパの技術的な遅れが、その通りであっても、[日本やアメリカが逆に技術による生活向上という進歩への夢想にやみくもに前進し続けているのに引き換え、伝統と進歩とを程よく調和させている唯一の文明圏は、やはりヨーロッパ](p.261)でした。

西尾は、ヨーロッパには[伝統と革新の、相互に行きすぎを阻み合うバランスの取れた力学がある]から、長期的には問題が[克服されるに違いない]とみていました(p.262)。現実はやや違います。これが現在、ヨーロッパあるいは世界の問題になっているのです。