■岡崎久彦の卓越した分析力:『国際情勢判断・半世紀』の台湾三策

     

1 国際関係論や歴史の本が役立つ

先日、営業でメリットを強調するようにと上司から言われて、やや不安があったらしく、相談に来た若者がいました。いきなりメリットを強調するのは馬鹿げています。ナンセンスだと伝えましたが、どうもよくわからなかったようです。しかし現実は別でした。

メリットを言わずに、お客さんにとってどうするのが良いかを語っているうちに、相手が賛同してくれたということです。その上で、メリットを語ったところ、今まで上司が突破できなかった案件が上手くいくことになったとの連絡がありました。そんなものです。

マネジメントの本には、この種のことはあまり書いてありません。しかし国際関係論や歴史の本を読めば、当然の前提ですし、事実もそうなっています。利害の合致だけでは連体は長続きしません。自由・民主主義といった理念の一致の方が、強力な連帯を生みます。

     

2 岡崎久彦の卓越した分析力

ビジネス人はビジネス書を読むよりも、信頼できる人の歴史などの本を読む方が、実際の仕事にも役立つのではないでしょうか。マネジメントで戦略論を語る人が、どれだけ実践力があるのか微妙な問題です。経営者から経営学の学者の話を何度か聞いてきました。

かえって国際関係の話の方が、ビジネスにも応用可能な理論になります。たとえば岡崎久彦の本です。実力が違います。『国際情勢判断・半世紀』にも台湾問題の話がありました。[退官後、国際情勢分析でまっ先に手を付けたのは台湾問題](p.163)とあります。

退官後の1993年、九州での国際会議で岡崎は台湾問題を話しました。そのとき[中国の代表がいて、「台湾問題はわれわれが決める問題だから発言しないでください」と抗議してきました](p.164)とのこと。どうやら日本側も、そんな雰囲気があったようです。

     

3 ビジネスにも応用可能な「台湾三策」の分析

岡崎は台湾三策を考えたとのことでした。上策・中策・下策になります。[上策は、独墺同盟がモデルです]。ビスマルクがウィーン占領直前で進軍を強引に止めて、1879年に独墺同盟を作りました。これが[その後の欧州安定の中心になりました](p.165)。

[中国も台湾の独立を認めて、その代わり中台同盟を結べ]が上策です。米英同盟も独墺同盟も同文同種の同盟は強固ですから[一挙に、中国は大強国]になったかもしれません。しかし現実からすると、[いささか夢想的]でした(p.165)。問題は中策です。

[台湾の自立を認めて、台湾の国連加盟も認めてしまう。ただそのスポンサーは兄貴分として中国が務める](pp..165-166)というものでした。当時は国民党の支配下ですから、[台湾の民意は全部中国に靡き](p.166)、台湾問題はおそらく終わっていました。

[危ないところでしたが、中国人でそれをわかる人はいても、共産党の硬直した姿勢では、とても]実行できません。[下策は今までどおりやっていること]です(p.166)。これなどは、ビジネスにも応用できて、今後の対応も考えられる分析といえるでしょう。