■「ハイルマイヤーの質問」:山本尚『日本人は論理的でなくていい』から

     

1 福井謙一の「一行で書け」

たいていの本は、さらっと読んだだけで、特別な記憶にも残らないで、再読しないまま終わってしまいます。あとで、その本に言及したお話を聞いて、すごい本だったのだとか、こんな大切な話が書かれていたのだと、気づかされることが何度かありました。

山本尚『日本人は論理的でなくていい』という本は、もうずいぶん前に読んだはずです。しかし、いい本だというイメージだけが残っていて、ほとんど内容を覚えていませんでした。ふと思い出して、再読して驚いています。たとえば「一行で書け」がありました。

ノーベル化学賞学者の福井謙一は、「その人の研究の成果を」「横書きの専門用語は使わず、縦書きの一行」で言うように求めたそうです(p.146)。この本にあったのかと思いました。ひどい話ですが、やってみようと思いながら、そのまま忘れてしまったようです。

     

2 「ハイルマイヤーの質問」

ハイルマイヤーの質問は、[これらの質問のすべてに、きちんと答えることのできないベンチャーには投資してはいけないと言われている](p.201)ものです。これだけでも、『日本人は論理的でなくていい』を読む価値があります。以下の9項目の質問です。

▼【ハイルマイヤーの質問】
1 何を達成しようとしているのか? 専門用語を一切使用せずに当該プロジェクトの目的を説明せよ
2 今日どのような方法で実践されているのか、また現在の実践の限界は何か?
3 当該アプローチの何が新しいのか、どうしてそれが成功すると思うのか?
4 誰のためになるのか?
5 成功した場合、どういった変化を期待できるのか?
6 リスクとリターンは何か?
7 どのくらいのコストがかかるのか?
8 どれほどの期間が必要か?
9 成功に向けた進展を確認するための中間および最終の評価方法は何か?  (pp..200-201)

目的を一般人にも伝わるように詰めなくてはいけません。現在の問題点を示し、新しいアプローチであり、成功する可能性があることを示すこと。それが誰に、どんな効果を上げるのか、費用対効果はどうか、コストと期間、検証方法を明示することが必要です。

     

3 マネジメントの実践的な訓練

本を読み流したまま、すっかり忘れてしまっていました。この本に限りませんが、何かあったという記憶があって、その本がたまたま目に入ったので、ちょっと待てよと思いついたのです。「ハイルマイヤーの質問」は何となく、どこかで気になっていました。

福井謙一の一行で「研究成果」を記せるようにするには、相当実力がないとできません。こうした練習をしながら、「ハイルマイヤーの質問」を考えていくことが必要だと思いました。こうした練習は、マネジメントの実践的な訓練になるだろうと思います。

ある程度の訓練の後には、質問項目をもう少し自分に引き寄せたものにすることもできるでしょう。しばらく9項目の質問で、いつくかのプロジェクトについて考えてみたいと思います。第1の質問には「専門用語を一切使用せずに」という限定がついていました。

山本尚は京都大学、ハーバード大学で学び、名古屋大学で20年研究を重ね、シカゴ大学に移っています。日本、アメリカのノーベル賞を受賞した研究者から学んできたノーベル賞クラスの学者です。『日本人は論理的でなくていい』は、2020年に出版されました。