■戦術と戦略は支柱と平面の関係:明石散人『真説 謎解き日本史』から

      

1 戦術は戦略を出現させるためのパーツ

戦略があって、戦術があるという考えもありますが、反対の考えもあります。どちらもありというべきでしょう。トップダウンと、ボトムアップのアプローチの違いです。しかし戦略論の多くは、トップダウン方式を取ります。リーダーが決断するという構図です。

マネジメントにおける戦略や戦術ではなく、実際の歴史の流れを見ると、一人のリーダーがなしうることは、全体の中のわずかなことだと思います。明石散人『真説 謎解き日本史』に、戦術と戦略について、その両者の関係と、定義が示されていました。

明石によると「戦術というのは、戦略を出現させるためのパーツ」です。[物を載せるには最低三点の支柱が必要]であり、[支柱が戦術であり、三点の支柱に乗せられた平面を戦略と言う。したがって、戦略を構築するには三点以上の戦術を必要とする](p.45)。

     

2 結果としての目的達成という考え

明石は戦術を重視します。偽札作りなら、[紙を用意し、次にエッチングで型を作り、最後に印刷機を調達する]方式ではダメで、[最初に一万円札に使用される紙があった][次に天才的なエッチング技師がいて][印刷機もあった]ら成功するとのこと(p.45)。

[戦術なくして戦略を考えてはいけない](p.45)との考えから、[目的というのは未来にあり、何だかわからないから目的という]と記します。目的について、[懸命に働き、結果として得た報酬で何が支えられるのかを考えなくてはいけない](p.46)との考えです。

明石流の戦術・戦略の見方から、「わらしべ長者」の話を解釈しています。無目的な神頼みから始まって、[結果としての目的達成、つまり、戦略の完結](p.51)という説明でした。しかし、初めの神頼みの時点で、より良い暮らしを願う気持ちがあったはずです。

    

3 目的設定時に戦術まで見えているか?

梅棹忠夫は、「目的なきシステム」というものもあると考えます。『比較文明学研究』で梅棹は、[目的をたてることは][工学的発想]であり、[生態系は、目的などなくても自己発展する]と言うのです(p.453)。希望や願いは、目的とは別枠で考えます。

梅棹の場合、「文明の生態史観」で、[現代のすべての人間の共通ののぞみ]というべきものは「よりよいくらし」(p.85)だと書いていました。「のぞみ」は目的ではありません。焦点が絞られていないものだからです。しかし行動に方向を与えています。

明石も梅棹も、「すべての人間」というように大きな領域を前提としていました。その場合、目的は絞り込めません。領域を限定した組織ならば、「よりよいくらし」をもっと絞り込めます。組織や個人のマネジメントの場合、「のぞみ」を絞り込む必要があります。

同時にまた「のぞみ」を絞り込んで目的にするには、戦術にあたる支柱が不可欠です。支柱の上の平面が戦略であるというのは、わかりやすいイメージです。明石の定義を読んで、目的を考える際に、戦術まで見えているかが重要な検証項目であると思いました。