■プラグマティズムのエッセンス:上山春平の解説『世界の名著 48 パース・ジェイムズ・デューイ』

      

1 『世界の名著 48』 上山春平の解説

ビジネスの基本的な哲学があるとしたら、プラグマティズムであろうと思います。マネジメントの基礎に、この考えがなかったら、理論構築はできそうにありません。逆にいえばプラグマティズムの理論を意識しないで、マネジメントの本は成り立たないでしょう。

マネジメントの本を読む時に、プラグマティズムのエッセンスを意識しながら読むことになります。この人の言うことは理論的にきちんとしたものであるのかどうか、その判定基準になるのです。では、プラグマティズムのエッセンスとはどんなものでしょうか。

エッセンスとは何かを考えるとき、その基礎文献が問題になります。自分では当たり前のように思っていましたが、最近になって、それは上山春平の導きによるものだと発見しました。忘れていたのです。『世界の名著 48』の解説の最後にありました。

     

2 優先して読むべきパートの提示

パース、ジェイムズ、デューイの主著からなる『世界の名著 48』の解説を、上山春平が書いています。最後に「本書の読み方」で、パースの論文の中でも、まずは「探求の方法」のとくに[第二節と第三節を精読していただきたい](p.49)とあります。

▼プラグマティズムの規則を定式化している第二章の「概念を明確にする方法」を読み、同じ観点から、一応デカルト主義批判の形をとっている「先天的方法」批判の形で、「科学の方法」に基づく独自な哲学思想の展開を行っている第三章の「直観主義の批判」と第四章の「人間記号論の試み」に進まれるのが良いと思う。 p.49(1968年版)

その上で[デューイの「探求の理論」としての『論理学』に進めば][理解が容易になる]。その際、[第一章をざっと流し読みしたうえで、探求過程の構造を論じた第六章と直接的認識を批判した第八章を精読することをおすすめしたい](p.49)と記しています。

     

3 パースの3段階とデューイの5段階

上山春平の示したのは「論理思想の分野」に関するものでした。勝手に「プラグマティズムのエッセンス」だと思っていたものです。現在の私たちが読むべき点は、ここでしょう。とくにこの分野を開拓したパースと、それを継承したデューイに着目すべきです。

▼パースは形式論理学の研究を進める過程で、推論に「アブダクション(仮説形成)」、「ディダクション(演繹)」、「インダクション(帰納)」という三つの形態があることに気づき、それらが私たちの科学的探究において、それぞれ独自な相補的役割を果たしている点に着目するようになったのであるが、この着想がデューイに継承されて、かれの晩年に完成された主著『論理学-探求の理論』(1938)となった。 p.44(1968年版)

三つの形態を、デューイは五段階、(1)「問題設定」、(2)「仮説」、(3)「推論」、(4)「テスト」、(5)「保証された命題」に分解しました。(1)(2)が「アブダクション」、(3)が「ディダクション」、(4)(5)が「インダクション」に、ほぼ対応します(p.46)。

デューイの分析方法は「生物学的、心理学的」であり、パースの分析方法は[数学的、論理学的であって、しかも生物学的、心理学的な面も弱くない](p.46)のです。ビジネスでは、デューイの5段階で思考を整理してから、パースの3段階に向かう発想になります。