■法的思考のトレーニング:ビジネス人に役立つ理由
1 通説よりも判例理論が重要
官僚になるためには、法律の勉強が不可欠です。法律の勉強をすると、思考が整理され、概念を明確化する習慣も身につきます。様々な案件を整理して処理するのに、法律を学ぶことがトレーニングになるのでしょう。これはビジネス人と官僚の違いにもなります。
官僚が行うのは、前例があって安定した案件が中心です。国の政策がふらついては困りますから、そうなります。法律は、安定性を重視する性質を持っている体系と言ってよいでしょう。判例が示され、それによって事例がどう法的に処理されるか、予測が立ちます。
判例変更というのは、例外的に起こるものです。法律の論点の多くは、すでに判例に示されたものであり、実務家は判例に従います。けして学界の通説ではありません。判例理論の理解が論点の理解ということになります。この点、ビジネスとは別世界の話です。
2 法的安定性を重視する学問
法律の実務家は判例理論にしたがって判断すると聞くと、ビジネス人の中には、自説が無いの…という反応を示す人がでてきます。ビジネス人の場合、自分の判断がどうであるのかを明確に示さないと、無能扱いされがちです。多くの人が違和感を持ちます。
ビジネスの場合、正解がなくて、より正しくて、よりロスが少ないといった基準で、自己の判断がなされるものです。世の中の通説に従っていたら、成功は逃げていってしまうでしょう。標準と違う、新しい機軸を示すことによって、成功の可能性が出てきます。
法律の判例重視に対して、前例に従うばかりなのかとか、権威に寄り添うとか、そんなイメージがあって、法律は評判のよいものではありません。しかし学問の性格からして、法的安定性が重視されるのは当然のことです。役割の違いだと言うことになります。
3 マネジメント体系への理解を促進
法律の判例理論を学ぶように、ケースを通じて理論を組み立てる思考法を身につけることは有益なことでしょう。法律の基本書の場合、判例あるいは判例理論を除外するものは、まずありません。標準的な法的思考のトレーニングをするのは役に立つことでしょう。
それによって、法律における標準的な思考の整理体系を学ぶことになります。法律の実務家になる必要はありませんから、気楽なものです。大学の教養課程で使うレベルの教科書なら一人でも読めるものですから、好きなものを選んで読むのも面白いと思います。
法律を深く学ばなくても、法律における思考の整理法を学ぶことは、リーダーにとって必要なトレーニングと言ってよいでしょう。そのトレーニングによって、マネジメント体系への理解が深まります。マネジメントよりも、法律の方がかっちりした体系です。
自説中心に記述するのが学問の標準的なスタイルかもしれません。しかし法律の実務の場合、判例の影響が極めて大きくて、これが共通基盤になっています。ビジネス人にとって、標準的で薄めの基本書は、貴重なトレーニング・ブックになることでしょう。