■ノーベル物理学賞学者 リチャード・ファインマンの創造性についての仮説

       

1 飛び抜けた学者 リチャード・ファインマン

ノーベル物理学賞をとったリチャード・ファインマンは、スペースシャトル「チャレンジャー号」爆発事故の原因究明のための「ロジャーズ委員会」のメンバーでした。そこで、Oリングという部品の不良が爆発の原因だと突き止めています。飛び抜けた学者です。

▼ファインマンはノーベル賞を受賞するに足るだけの論文を発表したのだが、彼の同僚がこぞって主張するのは、彼が数百に及ぶ自らの画期的な研究をきちんと発表する労をいとわなければ、もう一つや二つのノーベル賞は受賞でき、物理学にもっと大きな影響を与えただろうということだ。 p.58 『なぜ、この人は「いいアイデア」が出せるのか』

ロバート・サットンは『なぜ、この人は「いいアイデア」が出せるのか』で、ファインマンが、[他人の考えや行動にほとんど関心のない](pp..57-58)人物で、[大学の仕事には一切関与することを拒んだ](p.58)点に焦点を当てて論じています。

      

2 『人がどう思おうとかまわない』

ファインマンには『困ります、ファインマンさん』という著書があるので、お聞きになった人もいることでしょう。原題は『人がどう思おうとかまわない』だそうです。[彼を突き動かしていたのは、内なる思考と欲求だった](p.58)とサットンは記します。

サットンは[きわめて創造性の高い業績を上げたノーベル賞受賞者のことを知ったとき]に思いついたことがありました(p.200)。[創造的なプロセス、とくにその初期段階においては、「無知」は役立つ]ということです。これを「絶対法則」としています。

サットンは、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックや、ファインマンたち[多くの科学者が、それぞれの分野で他の人たちがやっていることに「無関心」でいたことが大成功の原因だとしている](p.201)ことから、この絶対法則に気づきました。

      

3 「ストロング」な方法

ファインマンは、シカゴ大学でワトソンに会ったときに、[ワトソンとクリックがDNAの構造を発見したときに使ったプロセスを説明した原稿(後に『二重らせん』として出版された)を読ませてもらった]のでした(p.201)。ファインマンは気がつきました。

[ある時期、以前よりも自分の創造性が衰えたと感じて意気消沈したことあった](p.201)のです。そういう時に、この原稿に出会います。同僚が読んで驚いているのに[対してファインマンはこう応じた。「無関心。僕が忘れていたのはそれだよ!」](p.202)。

▼リチャード・ファインマンは、同時代の文献を読もうとはしなかったし、また、以前の研究成果を参考にするというごく普通のやり方ばかりで研究を始めようとする大学院生をたしなめた。そうすることによって、「学生に独自の発見をするチャンスを捨てるなと教えた」のだ。 p.201

本人も意識して、行っていたようです。ハロルド・ブルームの『影響の不安』では、先行する成果を気にする人をウィーク、構わずに超えようとする人をストロングとしていました。創造性を発揮するには、ストロングでないといけません。その事例になっています。