■リーダーシップの定番の本:D・カーネギー『人を動かす』

     

1 感性に焦点を当てたD・カーネギー

マネジメントの本の定番がない状態ですから、経営学の分野で、リーダーシップの定番の本もないと言ってよいのでしょう。しかし経営学とは違う分野に、定番の本があります。D・カーネギーの『人を動かす』です。リーダーシップの本と言ってよいでしょう。

この本を取り上げる経営学の本は、ほとんど見られません。例外的なのは、阪口大和の『18歳からの経営学』です。阪口は、[経営学のマネジメント理論においても、かつては「人間は理性の動物である」と考え]られてきたと記しています(p.214)。

▼1930年代に現れたD・カーネギーは、こうした見方に真っ向から反論しました。彼はその著書『人を動かす』の中で、人間と言うのは本来、「他人から誉められたい、評価されたい」と心の中で望んでいるのだから、人を統率するには、そうした感情面からのアプローチが必要であることを説いたのです。 p.214

2 カーネギーに対する否定的な意見

阪口の本の該当部分に、「人間は理性の動物か、感性の動物か」という見出しがあります。人間は理性の動物であると考えられてきたものを、カーネギーが否定して、感性の動物であると言ったということのようです。ひとまず、阪口の評価を聞きましょう。

▼カーネギーの理論は、ひじょうに説得力に富むものであるのは事実ですが、しかし、かといって人間の理性的側面を否定するのもおかしなことです。どんなに自尊心をくすぐられても、人間は道理に合わないことはしないものです。 p.214

理性か感性かに二分する発想が、どうもよくわかりません。カーネギーの本を読めば、理性的側面を否定していないことは明らかです。カーネギーの本を否定したい気持ちが先走ったのでしょうか。理性だけでなく、感性の面も見ておく必要があるのは確かです。

3 リーダー必読の本

『人を動かす』は4つのパートからなります。第一部の「人を動かす三原則」が、リーダー・リーダーシップ総論というべきパートです。第二部「人に好かれる六原則」、第三部「人を説得する十二原則」、第四部「人を変える九原則」と続きます。

リーダーシップ論として重要なのは、第一部です。この総論に対して、各論というべきなのが、第三部「人を説得する十二原則」になるかもしれません。原則は第一部にありますが、第三部を読んだ方が理解が進む気もします。二つのパートで180頁ほどの量です。

第一部は3つの章からなります。1章「盗人にも五分の理を認める」…原則1「批判も非難もしない 苦情も言わない」。2章「重要感を持たせる」…原則2「率直で、誠実な評価を与える」。3章「人の立場に身を置く」…原則3「強い欲求を起こさせる」。

原則1は、人間は自分が悪いとは思わないものであるということ、原則2は、長所・強みに焦点を当てるということ、原則3は、「どうすれば、そうしたくなる気持ちを相手に起こさせることができるか?」を問うこと…になります。リーダー必読の本です。