■マネジメントの教科書がない理由:総合書よりも自分で考えるための補助線・断片
1 たくさんの本を読むオーナー経営者
マネジメントの定番の教科書がないと言われています。ではビジネスで成功している経営者は、どうしているのでしょうか。ファーストリテイリングの柳井正は[本を読むペースは一日一冊、しかもその大半は、ビジネス書](『プロの勉強法』 p.216)とのこと。
柳井の場合、バイブルがハロルド・ジェニーンの『プロフェッショナルマネジャー』だということです。こうやって自分のバイブルを持っている人たちがいます。その一方で、同じように、たくさんの本を読みながらバイブルなんてないよ…と言う人もいるのです。
数百人規模の企業のオーナー経営者は、バイブルになるような本はないけれども、とにかく実際の現場を見るだけでなくて、本を読まなくてはいけないと言います。一冊に一つでも役立つ話が見つかれば、その本を読んでよかったという考えです。
2 自分が欲しい断片探し
オーナー社長は、自分の経験に合う何らかの理屈が欲しいということでした。そうしたものを見つけるときには、最新のマネジメントやビジネス関連の本でないほうがよいとのことです。5年10年持たない理屈じゃ当てにならないから、やや古めの本を選んでいます。
海外とか、別の業種とか、環境が違う方が良いとも言っていました。ある特定の状況に合うものでなくて、時代が違い、国が違い、業種が違っても、そうだそうだというものは、安定しているという考えです。そういうものは、ごくわずかしかないのが現実でしょう。
著者が信じられなかったら、流し読みして、それで役に立つものがなかったら、その本とは縁がなくなります。こうやって、次々本が消費されていく感じでした。理論を理解するのではありません。自分が欲しい欠片というか断片を探しているという感じです。
3 自分で考えるための補助線
たくさんの本を読んで、これはすごいという本があるなら、その人にとってのバイブルになるということはあるでしょう。しかし、どう考えても、ビジネスのリーダーたちに、共通の教科書的な本というものは、存在しそうにありません。教科書不在です。
ドラッカーは『エッセンシャル版 マネジメント』に付した「日本の読者へ」(2001年)で自分の『現代の経営』を[全書というよりも入門書だった]と言い、[しかし『マネジメント』は、初めからマネジメントについての総合書としてまとめた]と記します。
▼『マネジメント』が世に出た後も、無数の経営書が出た。勉強になる重要なものも少なくない。しかしそれらのうち最もオリジナルなものでさえ、扱っているテーマはすでに『マネジメント』が明らかにしていたものである。(中略)『マネジメント』は、世界で最初の、かつ今日にいたるも唯一のマネジメントについての総合書である。
これをドラッカーが書いてから、20年以上のときが流れました。いわゆるリーマンショック以降、総合書や教科書よりも断片探しの傾向が強まった印象があります。ビジネスの実務家が、自分で考えるための、より具体的な補助線探しをしているということです。