■鈴木敏文の発想法の教科書:『わがセブン秘録』
1 鈴木の発想力のエッセンス
必要があって、セブンイレブンについての本をいくつか見ていました。セブンイレブンの生みの親である鈴木敏文の考えを知ろうと思ったら、『わがセブン秘録』がよいのではないかと思います。2016年にCEOを退任した後につくられた本です。
冒頭に2016年5月16日、[六〇年にわたる現役生活にいったんピリオドを打ちました]とあります。いままでの総括をする気持ちがあったのでしょうか。セブンイレブンおよび鈴木敏文についての基本書というべき本になっています。一気に語った本のようです。
鈴木は[長期間にわたって仕事を続けることができたのは、今はない状態から、新しいものを生み出す発想力については、自分でも衰えを感じることがなかったからです](p.3)と語っています。この本の中に、鈴木の発想力のエッセンスがあるはずです。
2 「未来を起点にした発想」
鈴木は「判断の尺度」を「お客様」に合わせることを何度となく語ります。顧客の視点が必要です。そのとき「未来を起点にした発想」が大切になります。おにぎりや弁当の販売やセブン銀行の発案も、一歩先の未来へとジャンプした「跳ぶ発想」から生まれました。
[セブン銀行の設立も、「二四時間三六五日、いつでも下駄履きで近くのコンビニで小口現金を出したり入れたりできたら便利だ」と思った](p.74)からとのことです。これは[未来がいまを意味づけ、新しい結びつきを生む](p.79)ということになります。
▼「未来を起点にした発想」の大きな特徴は、未来に何らかの可能性を見出した時、世の中にある様々な物事があらためて新しい意味を持つようになり、何と何が結びつくか、あるいは、結びつければいいか、気づきが生まれることです。 p.79
3 鈴木敏文の発想法の教科書
鈴木は、商売の主体を問題にします。[「お客様のために」と考えるのと、「お客様の立場で」考えるのとの違いは、別の表現をすると、「お客様を満足させる」と「お客様が満足する」の違いともいえるかもしれません](p.128)。「お客様が」を考えるのです。
本質は何かを考えることになります。[消費が飽和しているなかでも、お客様のニーズの本質をとらえれば、ヒット商品を生み出すことができる。物事の本質とは、いわば、クラブのスイートスポットです](p.173)。ゴルフクラブの真芯にあてることを狙います。
そのためには、こうではないかと仮説を立てることが不可欠です。仮説を立てて検証していかなくては、本質が見出せません。目的は何かが問われます。たとえば[単品管理の実践が目的であって、POSは仮説を検証する手段である](p.182)ということです。
鈴木は、[常に「未来を起点にした発想」を持ち、「お客様の立場で」考えれば、自分たちの本質的な目的は何かが明確になるのです](p.187)と語っています。この本はいわば、鈴木敏文の発想法の教科書です。繰り返し読むに値する本だと思います。