■ミッションとビジョンの違い:マネジメントの用語について

     

1 経営に教科書はない

マネジメントの定番の教科書とか基本書といわれる本はないようです。経営学の教科書として、ドラッカーの『マネジメント』が採用されることはないのでしょう。アメリカのビジネススクールでは、ドラッカーをほとんど扱わなくなっているそうです。

経営する側に聞いてみると、教科書なんてあるわけないと言います。大きな組織なら別でしょうが、こちらがお聞きした中小企業の範疇に入る会社を経営する人たちは、教科書通りいくはずないという発想です。ポイントだけ押さえておけばいいのだと考えています。

圧倒的な成果を上げ続けた社長は、マーケティングのプロというべき人でしたが、マーケティングの本を読んでも役に立たないという考えでした。「誰に、何を、どのように」だけでいいのだというのです。この順番で考えるんだよとのことでした。

2 用語の定義

私たちが考えようとするとき、様々な要素をいっぺんに考慮しようとして、考えがまとまらなくなることがあります。多様な要素を見ておく必要があるのは確かですが、それをもう一度整理しなくてはなりません。何らかの視点、フレームが必要でしょう。

このとき問題になるのが用語です。マネジメントの用語は、統一的な明確な定義がなされているわけではありません。先日、IT業界の有力者から、リーダーとマネージャーというのは、どっちが上なのですかと聞かれました。混乱しているというのです。

プロジェクトリーダーという場合、現場責任者というニュアンスが強くあります。プロジェクトマネージャーはチームのまとめ役ですから、この方が地位が上だと感じるでしょう。しかし常識的にはリーダーが上です。マネージャーは管理職にすぎません。

3 セコム創業者飯田亮の定義

ミッションとか、ビジョンとなると、定義するのに苦労しそうです。ここで大切なことは何かが問われます。セコムの創業者である飯田亮は、ビジョンのことをビジネスデザインと同一に扱っていました。『プロの勉強法』のなかの「ビジョン構築」でのことです。

▼ビジョンは一度決めたものを故障大事に抱え続けるものではない。たとえば「正しいことを追求する」といった経営理念は時代が変わっても変えてはいけないものである。しかし、ビジョンは時代や環境の変化に応じて変えていくべきだ。 p.28

さらにそのあとで飯田は、[これからは経営者がどういうフィロソフィー(哲学)とビジネスデザインを持っているか。どういう考え方で経営をしているのか。そうした長期的な視野に立った見方が、より重要視されるようになる](p.31)と語っています。

これでミッションとビジョンの違いが見えてきます。ミッションはフィロソフィー、ビジョンはビジネスデザインです。不変と可変の違いがポイントになります。これで明確になりました。シンプルで明確な概念を使って思考を整理しなくては意味がないでしょう。