■経営理論の読み替え:酒巻久『左遷社長の逆襲』を参考に
1 「目的・目標・手段」のフレーム
会社経営をしている人とお話をさせていただくと、理屈よりも実際の結果が大切だというニュアンスを感じます。トップリーダーなら、当然のことでしょう。どんなに素晴らしいという理論であっても、現実の経営がうまくいかなかったら、それは却下されます。
しかし、経営者の頭の中は、どうだっなのでしょうか。ときどき頭の中では理詰めで考えているのだろうと思う経営者がいました。あるとき理屈が整理されて、シンプルな形で提示されることがあります。いわば実践経験を経たフレームというべきものです。
かつて【ホンダの「A00」をめぐって:目的・目標・手段】を書いたことがありました。もう10年近く前のことです。ここで使っている「目的・目標・手段」はシンプルで強力なフレームだと思います。これを使って考えている経営者もいました。
2 キヤノン電子の目的・目標・手段
キヤノン電子会長の酒巻久は『左遷社長の逆襲』で、「目的・目標・手段」について記しています。酒巻は[キヤノン電子が達成すべき夢(=目的)と、それを実現するための具体的な目標および手段を]定めました(p.32)。ドラッカーの考えに基づくと記します。
酒巻によると、ドラッカーは[組織として達成すべき目的は、具体的な目標に置き換え、それに向かって社員のベクトルを一つに束ねるのがセオリーだ](p.32)と考えたということでした。組織としての目的が、具体化され現実化するプロセスが目標と手段です。
【会社として達成すべき夢(=目的)】「世界でトップレベルの高収益企業になろう」
【それを実現するための具体的な目標】「10年間で売上高経常利益率を15%にしよう
【その目標を達成するための手段】「すべてを半分にしよう(TSS 1/2 )」
3 理論の読み替えの必要性
酒巻はドラッカーの言葉だと言いながら、会社の目的を考えるときの価値評価・価値判断として「高収益」をあげています。この点に、違和感を感じる人もいるはずです。価値判断基準を考えるときに、客観性のある定量的な基準をドラッカーは使いません。
酒巻の場合、会社の経営者として、飛び抜けて優秀な人でした。自分の経営方針を考えるときに、ドラッカーの考えを補助線のようにして、読み替えているようです。実際、酒巻のあげた目的・目標・手段は、目的の具体化・現実化のプロセスになっています。
高収益を上げた時点で定量化を前提としていますし、それを具体的な数字にした目標がひどく現実的です。日本では、こうした客観的な基準で目的や目標を示すことが少ないため、ある種のショック療法になっている気がします。それを狙ったのかもしれません。
[社員を成長させるのは「緊張感」と「達成感」]、[成果は具体的な数字で「見える化」する](p.122)、[成果は目に見える具体的な数字で共有することが大事なのだ](p.123)と記しています。成果を上げるには、理論の読み替えが必要だったようです。