■哲学の欠如を修正したい:ジャック・ウェルチ『ウィニング 勝利の経営』のモデル
1 ミッションとバリューの2段階思考
ジャック・ウェルチが『ウィニング 勝利の経営』で、「私たちはこのビジネスでどうやって勝とうとしているのか」という問いが[効果的なミッション・ステートメント]を生み出すと言い(p.23)、[収益性-これがキーワード](p.24)と書いていました。
ウェルチの場合、ミッションとバリューの組み合わせで経営指針を考えています。収益の大きさが評価基準です。こうしたシンプルモデルをどう考えたらよいのでしょうか。まだ結論が出たわけではありませんが、考えているところを少し書いておきます。
ウェルチのモデルはミッションとバリューの2段階からなり、ビジネスの目的を考える前に、ビジネスの継続条件を考えるものです。継続が前提となりますから、現実的なモデルでしょう。勝てると思えるビジネスでなくては成功しません。しかし問題もあります。
2 ミッションの概念とビジョンの概念
晩年のドラッカーはミッションについて、自分達はどういう存在として記憶されたいのかを問うことと結びつけていました。使命から思い浮かぶイメージは、ドラッカーの考え方に近いでしょう。ウェルチの言うミッションは、ビジョンというべき概念に見えます。
こうすれば勝てるというビジョンがあって、行動規範が定められるという構造をもつのがウェルチ・モデルです。使命や志を語る前に、成果を上げなくてはならないという意味での成果主義といえます。組織が成り立つのは、収益を上げるからとの考えです。
「目的・目標・手段」のうちの、目標と手段からなるモデルといってよいでしょう。しかし、どんな目的で組織がつくられたのか、この回答がブランクのままになっていると、収益だけが目的になりかねません。哲学の欠如というべき状況に陥ります。
3 強みを発見する前提
ビジョンは、あるべき姿を示します。ウェルチのいう「ミッション」は、そちらに該当するものです。目的ではなく、目標の領域に含まれるものでしょう。目的と目標の違いは、定性的なのか定量的なのかの違いです。ビジョンを定量化したものが目標になります。
「私たちはこのビジネスでどうやって勝とうとしているのか」を問うには、勝ち負けが明確にならなくてはなりません。定量化された客観的な基準があるからこそ、明確になるものです。この点から、ウェルチの「ミッション」は、目標の領域のものだと言えます。
ここからが問題です。成果を上げて組織を継続させた経験なしに、目的・ミッションが見い出せるものなのでしょうか。ドラッカーでもウェルチでも、強みを重視します。そして強みは、事前にわかるものではなく、実践を通じて見出されるものに違いありません。
強みを見出すためにも、ビジネスで勝たなくてはダメだということです。ウェルチのシンプルモデルが完璧でないのは、ウェルチの晩節を汚した件をチェックしてみればわかります。しかしウェルチのモデルは、修正可能なだけの形式を備えていると思うのです。