■文法的分析と「は-が-の」の序列パターン:佐々木健一『論文ゼミナール』から
1 「は-が-の」の序列
佐々木健一は『論文ゼミナール』の「第八章 文章法」で、[「は」と「が」と「の」の使い分け]について書いています。自作の悪文を[「は-が-の」の序列で重層的な文に対処する]方法で修正して、[私の答案は、こうなります]と示しました(p.173)。
▼ディドロは、よい絵画が、現実の知覚対象の与えるような身体的接触感を、見る人に経験させる、と考えていた。 p.173
これは修正した文です。わかりやすい文ではありません。佐々木は、[「は」の重複を回避するにはどうしたらよいでしょうか]と問い、[従属節の中の主語は「が」]であること(p.172)と、[「が」は「の」に置き換え]が可能な場合とを考えています(p.173)。
2 文法分析とパターン方式
佐々木は、「は-が-の」と並ぶように序列をつければよいというパターン方式を示しました。これは[わたしが実践している工夫](pp..173-174)であり、[実践的な指針]として示したものです。[文法の議論には立ち入りません](p.171)とも記しています。
通説の日本語文法では、センテンスの構造が分析できませんので、こうしたパターンを示すしかないのでしょう。これで十分とは言えないので、工夫・指針という言い方になります。日本語文法がシンプルな分析方法を示せていない証拠の事例になりそうです。
英語なら、SVOCでセンテンスの構造を分析することができます。日本語で同じように分析する場合、「主体・キーワード・TPO・文末」の要素で考えればよいというのが私の考えです。試してみましょう。適切な修正文が導き出せるかが問題となります。
3 文法的な分析と修正文
例文「ディドロは、よい絵画が、現実の知覚対象の与えるような身体的接触感を、見る人に経験させる、と考えていた」の主体は【ディドロは】、文末は【よい絵画が、現実の近く対象の与えるような身体的接触感を、見る人に経験させる、と考えていた】です。
文末の中に、「よい絵画が、現実の近く対象の与えるような身体的接触感を、見る人に経験させる」という節(文形式)が含まれています。これを文として考えると、主体は【よい絵画が】、キーワードは【身体的接触感を】【見る人に】、文末は【経験させる】です。
中核となる【よい絵画が…経験させる】が、すっきりしません。擬人的な受身という感じがします。【よい絵画】に焦点を当てるなら、【見る人に】【経験を】【与える】の形式にした方が明確です。佐々木も[受身形を避ける]ことを指針にしていました(p.160)。
センテンスの中核【ディドロは…と考えていた】に合わせて調整すると以下になります。
▼例文: ディドロは、よい絵画が、現実の知覚対象の与えるような身体的接触感を、見る人に経験させる、と考えていた。
▼修正: ディドロは、よい絵画とは、見る人に現実の知覚対象と身体的に接触したような経験を与えるものだと考えていた。