■文末の決定権が極めて大きい日本語:山口仲美『日本語が消滅する』から
1 論理的で機能的な言語
山口仲美の『日本語が消滅する』という本があります。消滅の話はどうでも良いものです。その可能性を語っているにすぎません。それよりも、『日本語の歴史』を書いた人が、日本語のエッセンスを語っている点が、この本での貴重なところです。
[日本人は、様々な工夫を重ねて、日本語を使いやすく繊細な意味合いまで出せる言語に進化させてき]ました。たとえば「花 咲く」を[鎌倉・室町時代には「花が咲く」のように、助詞「が」「は」「も」などを入れ]るようになったのです(p.139)。
[語順だけで文を構成する場合よりも、はるかに微妙な意味合いまで出せる言語に]し、[漢字と仮名を混ぜて書く方法]は、分かち書きなしに[読める機能的な文章]にしました。日本語を[論理的で細かいニュアンスまで出せる言語に改良]したのです(p.140)。
2 修飾語が前に来る言語は約一割
日本語の「主語+目的語+述語」の語順と、英語の「主語+述語+目的語」の語順、この二つが[世界の言語の大半を占め]ていて、角田太作の調査では、前者が44%、後者が39%とのこと(p.189)。日本語の語順は、めずらしいものではないということになります。
日本語の場合、[大事なものは常に後ろに配置するという性質があ]って、「昨日食べたおかず」なら「おかず」が重要になります(p.191)。こうした[修飾される語が修飾語より後に来る]言語は[約一割]しかないため、[日本語の特色]とも言えます(p.192)。
▼さらに、日本語では末尾の述語に、動作がすでに完了しているかどうか、過去・現在・未来のいずれのときになされたのかを示す機能も持たせています。日本語は、文末の決定権が極めて大きい言語なのです。 p.193
3 文末の決定権が極めて大きい日本語
文末の決定権が極めて大きい日本語は、[聞き手に最後まで聞いていることを強制する力]を持ちます。[最後まで聞かないと、相手の言いたいことがわからない]、[最も大切な述語が最後にあるから、話の向かっていく方向がつかみにくいのです](p.193)。
ところが、[日本文化は、断定的に言い切るのを嫌う文化です。断定しないところに、ゆかしさや思いやりを感じる文化です。この文化の中では、最後まで耳を傾けさせる力を持つ日本語文の特色が台無しになることが多い](p.194)。この指摘は大切です。
▼国際社会で、日本人は、言いたいことがよくわからないと批判されることが多いけれど、最も重要な述語をはっきり発音しないことや、内容全体をぼかす文末をつけることに原因があります。最後の述語まで明快に言うことを嫌う日本文化も、国際的な場面に限ってはどうしても改善しなくてはなりません。 p.196
学術の場合でもビジネスの場合でも、明確な言いかたが必要とされています。何を気をつけなくてはいけないのか、明らかでしょう。日本語で、簡潔・的確な表現にしようと意識する必要があります。そのためにも日本語の仕組みを知る必要があるということです。