■「は」と「が」の違いと使い分け:日本人とN1合格者への解説例
1 N1合格者のレベル
留学生が「日本語能力試験」のN1(エヌイチ)に合格するのは大変なことだと言われています。日本語を母語とする人でも、簡単な問題ではないとのことです。しかし合格者たちは、日本語は難しいといいます。実際、書くのはまだまだ、読むのにも不自由です。
日本の学生と留学生に、50問のドリルをしてみました。ブランクに「は」か「が」を入れてくださいという問題です。日本人学生は、感覚でどんどん入れていきますから圧倒的に早く完成させます。留学生は、感覚だけではどうにもならないところがあるようです。
N1に合格した人たちを見てみると、8割以上の正解率ですが、9割を超えた人は半分もいません。日本人学生の場合、9割を超えるのが普通ですが、全問正解はいませんでした。助詞の使い方は難しくて、とくに「は/が」の使い分けは簡単ではありません。
2 違いが生まれる要因
「は/が」の使い分けと言っても、どちらでもよい場合があるのは当然です。たとえば「わたし[ ]参加します」の場合、「は」でも「が」でもどちらでもよいので、両者のニュアンスがどうなのか聞いてみました。N1合格者は違いがすぐに分かります。
テキストにも、この違いを説明する記述があったようです。しかし何でこういうニュアンスの違いがあるのか、それについての説明がないと言っていました。特定と選択肢の話をすると、知らなかったとなります。限定と選定というと、あれれという感じです。
「あの赤い建物[ ]図書館ですか。それとも白い建物の方ですか。」という問題は、日本人でも間違います。しかしできる学生は、後ろがあるからと即答しました。赤い建物と白い建物の選択肢のうち、赤い建物を選んで聞いているので「が」になります。
3 「特定して限定」と「選択肢から選定」
「は」と「が」の使い分けをする場合、2つのチェックをしていると言ってよいでしょう。赤い建物と白い建物があって、赤い建物を図書館と結びつけていいかを確認しています。赤い建物と白い建物の選択肢があって、そのうちの「赤い建物」を選定したのです。
「あの赤い建物[ ]図書館ですか。」だけならば、「は/が」のうち「は」が入るはずです。ところが「それとも白い建物の方ですか。」とついていますから、選択肢があることがわかります。その選択肢の中から選定したということが読み取れるでしょう。
「は」がつくのは特定できて、それだけに限定して言う場合であり、「が」がつくのは選択肢があって、その中からこれだと選定して言う場合だということになります。この説明は、日本人学生だけでなく留学生にも、わかりやすいという反応でした。
「返事はいいのです」と言えば、誉めてはいません。「返事」に限定して、それだけが良くて、それ以外はダメなのでしょう。「返事がいいのです」ならば、良いことの中から「返事」を選定しています。他にもよいところがあると感じられるはずです。