■地理歴史の知識の劣化と教養水準:ヨーロッパ中心主義の終焉

     

1 ヨーロッパについての知識

かつての日本では、ヨーロッパの先進国に対しての関心がありました。これを当然のように感じていたはずです。ヨーロッパの先進各国の状況がどうであるのか、それに対して日本はまだ遅れているという議論がありました。いまでもあるに違いありません。

一方で、ヨーロッパ諸国がどうであるかを気にしすぎているという意見も、かつてからありました。いまヨーロッパがどう扱われているのか、垣間見えることがあります。日本人学生と留学生たちの、ヨーロッパについての知識を確認すれば、一目瞭然です。

学生たちにヨーロッパの地図を渡して、ブランクに国名を記入するようにと言ってみます。小国がどうこうではなくて、イギリスがどこかといったレベルの問題です。ここ数年で、大きく変化してきました。日本人もダメですし、アジアの学生がもっとダメです。

     

2 義務教育での軽視

留学生の中には欧米からの学生がいますので、計算問題など楽々こなす学生たちが、ヨーロッパの主要国がどこにあるのかわからないのを見て、驚いています。「先生、これはヤバいです」とヨーロッパからの留学生が言ってきました。どうもいけません。

学生たちに聞いてみると、中国でも東南アジアでも、学校の義務教育の過程でヨーロッパに触れることがほとんどなくなっているということでした。各国が自国中心でモノを考えますので、関係の深い国を中心に教育がなされています。

それ以上に、海外事情に対する意識が変わってきているようです。アジアの国や南北アメリカ、アフリカに関する知識も劣化しています。ヨーロッパの地理的な知識の欠落だけではないでしょう。しかし学校の担当者は、ある種のショックを受けるようです。

     

3 教養水準の劣化

日本でも40代以降の人なら、イギリスやフランス、ドイツが白地図のどこであるかわからないというのは、問題あると感じることでしょう。いまや日本人学生の過半数が間違えます。アジアからの留学生は8割が間違えますし、授業で聞いたことないと言うのです。

10年前でも、ここまでひどくなかったはずです。日本で言えば、ゆとり教育の影響でしょう。ゆとり教育が「効果」を上げて、ヨーロッパ地理をきちんと教えなくても平気でいるようになったようです。基本が欠落すると、その先に進めなくなります。

日本でゆとり教育が始まってから、高校を卒業した学生たちの学力低下が急速に起こり、アジアの留学生たちとの成績の差を一気に縮めました。その後、アジアでも実質的にゆとり教育になってきています。このとき計算よりも、地理・歴史の知識が低下しました。

ある種の自信が背景にあるのは間違いありません。欧米がどうあろうと関係ないということです。しかし先進各国の地理や歴史を知らないために、ニュースの背景を説明しても理解できません。ヨーロッパ中心主義の終焉は明らかです。教養水準も劣化しています。