■エマニュエル・トッド『思考地図』:新しいことを見出そうとする人に

     

1 思考は手仕事

エマニュエル・トッド『思考地図』では、哲学が批判的に扱われています。[哲学者は多かれ少なかれ、机に向き合い、「考えるとはどういうことか」と自問自答を繰り返してきた]が、[「思考する」とは、そんな抽象的なことではない](p.21)と言うのです。

[世界の名だたる哲学者たち、デカルト、カントなどは、私にとっては言葉遊びをしているだけ][哲学が現実から完全に離脱してしまっている]、だから[私は思考するために哲学を学ぶ必要はありませんでした](p.22)と、ほぼ全面的な否定になっています。

では思考とはどんなものでしょうか。娘さんの学校でミーティングがあったとき、哲学の先生が手書きを推奨して、[手書きの場合は、書き始める前に考えなければいけません。だから、思考は手仕事なのだ]と言ったそうです。トッドは、これに賛同しています。

     

2 着想を検証・分析

トッドにとって[知らないことを知ったときの感動こそが思考するということ]なのです。考えるよりも[最初に学ぶ。そして読む][私はずっと本を読み、そしてひたすら学び続けてきた]、[そこにあるのは、ただただ学ぶことの喜び](p.27)と語ります。

トッドにとって[考えるというのはデータを蓄積するということ]です。[データの関連性を見つけることや地図を比較することは、ほとんど自然発生的にできる][いわば「思いつき」]にすぎません。これを[何らかの手段で検証]していきます(p.30)

[着想の検証やデータ分析の際に-私の場合は統計学という-フレームが重要な役割を果たす](p.30)のです。思考のフレームが不可欠になります。膨大な知識を仕入れて、そこから着想したものを検証・分析するのが思考であり、その際、手仕事が必要なのです。

     

3 手書きの方法

[私の仕事の95%は読書です][研究を進めるためには、とにかく事実(ファクト)を蓄積しなければなりません](p.45)。その際、[直接本に書き込みます。こうするとなくしてしまう心配もないですから](p.49)。そのためにも[本を買うことは大切です](p.47)。

[線を引いたりしますし、大切なページには切手を貼っておくこともあります](p.50)。同時に[アイディアを書くためのノートも用意しています。パソコンを使ってみたこともありますが、いまは手書きにしています。簡単な図式を書いたりもします](p.51)。

▼研究というのは退屈するためのものではありません。私にとって図や表を書いたりしてみるのは、それ自体がとても楽しいことなのです。こうやってメモをとったり図を描いたりするというのは、情報システムによる均質化の脅威から逃れることを意味します。これはAI(人工知能)には絶対できない作業です。 p.51

トッドの『思考地図』は、何か新しいことを見出そうとする人にとって、何らかのヒントを与えてくれるだろうと思います。「完全日本語オリジナル」だそうです。読みどころは上記に尽きるはずもなく、まだまだあります。手元に置いておく価値のある本です。