■マニュアルの基礎的構造:「疎結合」
1 「密結合」と「疎結合」
別の分野の方々のお話を聞いてみると、ここでもこういう考え方でやっているのかと感じることがあります。IT技術者のお話を聞いたときに、マニュアルの構造について考えました。IT技術の専門的なことはわかりませんが、興味深く思ったことがあります。
システムを構成するときに、「密結合」と「疎結合」があるとのことです。ご存知の方にとっては、基礎的な話でしょう。密結合は、要素間での関係性が強く、他要素への影響が強くなり、疎結合は、要素間の関係性が緩く、個々の要素の独立性が強くなります。
全体が統合された状態になるのが密結合の場合であり、ここが独立して稼働する状態になるのが疎結合の場合と考えてよさそうです。マニュアルの場合、各要素を疎結合するものだと思いました。特定項目だけで、完結したものにする必要があります。
2 項目を独立・完結型にする理由
全体を統合する場合と違って、一つひとつの項目を独立させるためには、項目の内容を絞り込まなくてはなりません。内容が完結している必要があります。ある特定の目的を果たすための記述になっていて、そこだけを読めばわかるようになっているということです。
こうした構成にする場合、全体を見ると重複する内容が記述されることになります。全体の中のどこかに記述しておけばよいのではなくて、各項目の目的に従って、必要な内容ならば記述しておかなくてはなりません。そうしないと参照が必要になります。
参照をしないで済ませた方が良いのは、利用の観点からすれば当然のことでしょう。説明・解説が必要になった人が、素早く読めて、正確に理解して解決したら、さっさとサヨナラするのがよいマニュアルです。参照するのは時間のロスにつながります。
3 マニュアルの基礎的な構造
項目完結型というべき構造を採用した場合、目的に沿った項目をそろえておかなくてはなりません。必要項目がなかったならば、利用目的を達成することは困難です。マニュアルの場合、必要となる項目を十分に用意しておかないといけないということになります。
ただし、最初からすべてを用意する必要はありません。疎結合ですから、独立した項目をつぎつぎ並べていけばよいのです。最初から不備のないマニュアルを作ろうとすると、とても苦労します。利用してもらって、問題点を指摘してもらう仕組みが必要です。
項目完結型にすると、項目で扱う内容も単一の目的に沿ったものになりますから、記述内容はシンプルになります。「こういうとき、どうしたらよいのか」「これは何をすればよいということなのか」「どんな手順で行えばうまくいくのか」といったものです。
疎結合の考えを聞きながら、マニュアルのことを考えていました。マニュアルにとっても、一番基礎的な構造といえるかもしれません。マニュアル作成における前提にもなっています。説明するときに「疎結合」と「密結合」の話は使えるかもしれません。